母から受けた苦しみを引きずり、それを無意識のうちに自分の娘へと向けてしまっていることに悩む母親がいる。
歪んだ母娘関係が深刻なのは、その関係が悪しき連鎖となって、次の世代へと受け継がれてしまうことがあるからだ。
今回はその典型的ともいえるケースを紹介します。(こちらは2013年11月1日付け記事を再掲載したものです)

母のようにはなるまいと思っていたのに

「このままだと取り返しのつかないことをしてしまいそうなんです」
 開口一番、その母親(30代)は私に訴えた。

 自分ではそのつもりがないのに、8歳の娘に体罰を繰り返しているというのである。

 娘の引き裂くような泣き声にはっと我に返ると、娘の手が真っ赤に腫れ上がるまで叩いていたり、ときにはこぶができるほど娘の頭をゴツンとゲンコツで叩いてしまうこともあるという。

 そんなことが重なって、娘は年中母親の顔色をうかがうような目つきをする子になってしまったと、その母は告白した。

 母親自身、目に見えない力が働いてわが子に暴力を振るってしまうことに苦しみ、自責の念を強めていた。

 いい母親であろうと思えば思うほど、その見えない力が邪魔をし、気がつけば幼い娘が悲鳴を上げている。

 そんな自分が恐ろしくなり、カウンセリングを受けようと思い立ったとのことである。

「そうですか。いろいろと大変でしたね」

 私はまず母親の苦労をねぎらい、
「でも、お母さんも小さいときにご苦労なさったのではないですか」

 そう母親の娘時代に話を向けると、その母は声を振り絞るようにして自分の子どもの頃の話を始めた。

袰岩秀章【ほろいわ・ひであき】
埼玉大学人間社会学部心理学科教授、カウンセリングルーム・プリメイラ代表。

日本集団精神療法学会理事・認定グループサイコセラピスト、日本心理臨床学会・日本精神分析学会正会員、Senior member of Academy for Eating Disorder、Life Time member of World Federation for Mental Health。他に、東京都立教育研究所上級カウンセリング講座、スクールカウンセラー養成講座、滋賀県精神保健センター上級集団精神療法講座、千葉県総合教育センター上級カウンセリング講座、埼玉県学校カウンセリング上級研修会等の講師などを歴任。
1994年、国際基督教大学にて博士(教育学)取得。同年、日本女子大学専任カウンセラーに就任。
大学院生であった1992年にカウンセリングルーム・プリメイラを妻で心理カウンセラーである袰岩奈々と開設する。