児童虐待をテーマにしたドラマ「Mother」(日本テレビ)が好評だ。一方、ニュース番組では毎日のように虐待事件が報道され、週刊誌にも頻繁に非道な“鬼父、鬼母”の見出しが躍る。
身体的虐待、心理的虐待、性的虐待、そしてネグレクト(育児放棄)――。子どもの虐待はなぜとどまることがないのか。
その裏事情を現場に聞いてみた。
生活苦や夫婦喧嘩が
虐待のきっかけに?
厚生労働省の調べによると、児童相談所が対応した養護相談のうち「児童虐待相談の対応件数」は4万2664件。前年度に比べ5%増加し、過去最多となっている。
とはいえ、虐待そのものの件数が増えているかどうかはわからない。
NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク理事長の吉田恒雄さんは「対応件数は虐待の数そのものではなく、実態が深刻化しているかどうかについては、なんともいえません。対応数が増加したということは、それだけ通報が増えたということでもあり、虐待への社会的認知度、理解度が深まった証拠ともいえます」と説明する。
ただ、経済情勢の悪化は、“鬼父、鬼母”をさらに生む可能性もある。虐待の温床ともいえる“家庭内の軋轢(あつれき)”が、不況によって引き起こされやすくなるからだ。
実際、2009年3月におこなわれた全国児童相談所長会の報告では、虐待する家庭の状況でもっとも多く見られたのが「経済的困窮」。全体のおよそ3割を占めていた。
「両親ともに非正規雇用という家庭はたしかに目立ちますね」
と話すのは、東京都北児童相談所に勤務する児童福祉司、川松亮さん。
「もちろん、非正規で貧しい家庭だから虐待をしやすいということではけっしてありません。しかし、虐待の程度が重いケースでは経済的困難も抱えている場合が多いんです」