「あなたは虐待を受けている」などと伝えるのは、伝える側もつらい。
10年ほど前までは、それは虐待だ、と伝えると「えっ?」という反応を見せるケースが多かったように思うが、最近は「うすうす気づいていた」「認めたくはないけれど、やっぱりそうか」と口にする方が増えているように思う。虐待による事件がたびたびニュースになるせいだろうか。
また、幼いほど、あまりにも日常的に叩かれ続けていると、そういうものだと思い込んでしまい、叩かれることに慣れ、違和感を感じなくなってしまう。
大学生となり20歳をすぎた今でも、母親から暴力を振るわれることがあるというN美さんだが、怪我をするわけではないし、慣れたという。
暴力を振るわれるよりも、つらいこと
でも、N美さんにとって虐待よりもつらいのは、自分のやりたいことや好きなことを母から否定されることだと言う。
「自分がやりたいことを反対されたり、悪く言われると、やっぱり傷つきます。心の中では母に喜んでもらいたい、っていう思いがあるからかも。
子どもの頃から母の手伝いを自分から率先してやったのも、そういう気持ちがあったからだと思う。自分が母の役に立っていると思うと、うれしかったから。ほめられたかった、というのもあったと思う。
どんなに叩かれても、いつも私は、母に認めてほしい、ほめてほしい、と思っていたんです」
N美さんが、こういう仕事がしたい、こういう会社に入りたいと候補を出すたびに、母親が難癖をつけて反対するのだという。
N美さんには出版社で雑誌や書籍を作ってみたいという憧れがあったが、母親は、娘の夢を応援するどころか、むきになってそれを邪魔しようとしているようにしか思えない、というのである。
「あなたにそんなことできるの?」「ミスしたら大変な仕事なのに、あなたには向かないわよ」と、ことごとくケチをつけるのだ。
しかし、どんなに悪く言われようと、ケチをつけられようと、N美さんは自分の進路を母親と相談して決めたかったのだという。
「頑張ってね」と母に送られて、新しい道に踏み出したかったからだ。
だから、何度も母に理解してもらおうと、就職先の相談をもちかけた。
しかし、母の反応は冷たかった。