ある女性タクシードライバーの「現実」 “強さ”と“弱さ”が見せるリアル写真はイメージです Photo:PIXTA

 ノンフィクションライター・山田清機氏による『東京タクシードライバー』(朝日文庫・第13回新潮ドキュメント賞候補作)。山田氏がタクシードライバーに惹かれ、彼らを取材し描き出した人生模様は、決してハッピーエンドとは限らない。にもかかわらず、読むと少し勇気をもらえる、そんな作品となった。今回はある女性ドライバーのストーリーをお届けする。失敗ばかりでもタクシードライバーを続ける彼女の「現実」とは……。

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 綾瀬にある日立自動車交通(日本交通グループ)の早朝の応接室に現れたのは、仲村今日子という女性ドライバーである。

 日本交通グループの男性と同じデザインの制服を着ているが、どう見てもオーバーサイズだ。肩が落ちてしまっている。色白で華奢な印象は、およそタクシードライバーらしくないのだが、それもそのはず、まだ営業を始めてから10カ月しかたっていない初心者だという。

 仲村は、ひとりで営業に出るようになってからわずか数日間のうちに、3人の客から「タクシードライバーはやめた方がいい」と忠告を受けている。