全量を県産米と生酛系酒母で
醸す美味なる地酒
伝統的な生酛系酒母で造る酒は、味に深みがあり、個性が出ます」と、香住鶴10代目の福本和広さん。
1725年に創業した老舗蔵で、兵庫県北部の日本海に面した香美町に蔵が立つ。山陰海岸ジオパーク内の自然豊かな地域で松葉ガニの水揚げ港もあり、海の幸が豊富だ。
「鮮度の良い魚に合う、地元の人にうまいと言ってもらえる酒を目指しています」。特にカニは調理法別に酒の種類を提案する。
今の酒造りの主流は早く安全な速醸酛だが、香住鶴は全量が天然の乳酸を生かした生酛系酒母の酒造りだ。
1967年から山廃酛に力を入れ、その後、生酛を増やし、2011年に速醸酛を撤廃した。大吟醸から晩酌酒まで、時間をかけて丁寧に醸し、どの酒も切れ味の良さと重層感が魅力だ。
酒母造りの室は二つあり、木製の壁の室で天然の乳酸菌をすみ着かせ、樹脂製の壁の室へ移す。原料米は全量兵庫県産米に特化。1936年に誕生した最高峰の酒米である山田錦は、県南の特A地区とミネラルの多い蛇紋岩土壌など複数の産地を使い分ける。また、コウノトリの野生復帰を願う地元但馬地域の「コウノトリ育む農法」の五百万石でも醸す。収穫後の田んぼに米糠をまき、冬季間湛水させ、コウノトリの餌になるミミズやドジョウ、カエルがすむ、環境に優しい栽培法だ。
2003年に風光明媚な矢田川沿いに新蔵を建てた。地元の人に気軽に寄ってもらいたいと設けたラウンジ付きの直売店は、町のオアシスだ。
●香住鶴・兵庫県美方郡香美町香住区小原600-2●代表銘柄:香住鶴 山廃吟醸純米、香住鶴 蛇紋岩米山田錦 山廃吟醸純米、香住鶴 生酛純米●杜氏:松本幸也●主要な米の品種:山田錦、五百万石、兵庫北錦