出口戦略の問いかけに
“なしのつぶて”の黒田日銀総裁
黒田日銀総裁はこれまで、衆参両院での参考人質疑においては国民の代表である国会議員から、金融政策決定会合後の総裁記者会見においては各メディアの記者から、何回となくどころか何十回となく、出口戦略を問われている。しかしながら、その答えは毎回“時期尚早”の一点張りで、“なしのつぶて”だった。
ところが海外では、大規模に量的緩和を実施した中央銀行が、後々財務運営が悪化して債務超過に陥ることを最初から見通したうえで、国としての対応をしっかりと講じている国がある。英国だ。出口局面で英国の中央銀行であるイングランド銀行(BOE)の損失が嵩(かさ)むことになれば、その全額を政府が補償することを明確にし、最終的に納税者である国民が負担せざるを得なくなることを覚悟のうえで、国としてしっかりと中央銀行を支える、そしてBOEには国が支えられる範囲内で金融政策運営をしてもらう、という役割分担を明確にしているのだ。
連載3回目は、金融危機以降、イングランド銀行がどのような金融政策を行い、それを国の側がどのように支えているのかを見ながら、中央銀行の債務超過転落はなぜ放置してはいけないと考えられているのかを、考察しよう。
BOEの独立性は「手段」のみ
政府と中央銀行との関係は相対的に強い
BOEは1997年に政府からの独立性を獲得した。寄しくも、日銀が政府から独立性を獲得したのと同じ年だ。ただし、その際にBOEが得た独立性の中身は「手段の独立性」に限られ、米連邦準備制度(Fed)や当時のドイツ連邦銀行(現在の欧州中央銀行の前身の一角)がそれに併せて有する「金融政策運営の目標設定の独立性」までは得られなかった。金融政策運営上の目標設定権限は政府が握るなど、英国における中央銀行と政府との関係は他の主要国と比較すれば相対的に強い。
たとえば、財務大臣からのインフレ目標設定の通知やBOE総裁側からのその達成状況にかかる報告といった、政府側(財務省)とBOEとのやり取りは、「公開書簡」の形で行われる。これは、政府から独立した主体であるBOEは、政府とはまた別の見解や知見を持つことがあり得るという前提に立ち、両者の見解をきっちりと分けて国民に開示し、説明責任を果たさせる、というものだ。