だが現実には、国は、この推本の意見を採用していない。国が採ったのは、その5カ月前、2002年2月に、公益社団法人・土木学会の津波評価部会が打ち出した、これとは全く異なる「決定論」という見解だ。

 これは日本で過去に起こった津波には、それぞれ津波を起こす「波源」が存在しており、それをどう特定するか、という理論に基づいている。その結果、日本を取り囲む「8つの波源」の存在が具体的に挙げられた。推本とは異なる極めて具体的なものである。

 そして、その「8つの波源」は、福島沖にも、また房総沖にも、「なかった」のである。2006年1月25日、総理大臣をトップとする「中央防災会議」はこれに基づき、福島沖から房総沖を津波防災の検討対象から除外した。

マスコミの報道姿勢が
福島復興の妨げに

 では大津波が来たことで推本が正しかったことが証明されたのだろうか。

 それは違う。大震災の大津波は、岩手県沖から茨城県沖に至る南北約500キロ、東西約200キロという広大な範囲で多数の領域が連動して活動した国内観測史上最大、世界観測史上でも4番目にあたる巨大地震だ。推本や土木学会など、過去のどの学説や論にも該当しない空前のものだった。これを指摘していた学者は一人もいない。

 しかし、前橋地裁判決は、これを<予見可能だった>と断言するのである。推本の論に拠って立てば、当然、「福島沖」も「房総沖」も含まれる。要は、そこに20メートルの巨大防波堤を建設しておけば、東電も、国も、「責任を果たした」と前橋地裁は言いたいのだ。

 だが<三陸沖から房総沖の海溝沿いのどこでもM8クラスの地震が発生する可能性がある>という曖昧な論をもとに、果たしてそんなことができたと思うだろうか。