仮にこの具体性のない論で各地に巨大防波堤をつくる自治体が出てきたら、住民の猛反発を食らっただろう。前橋地裁の判決は現実性と具体性なき提言を“アト講釈”で引っ張り出した、とのそしりは免れまい。

『死の淵を見た男――吉田昌郎と福島第一原発』書影門田隆将氏の著書『死の淵を見た男――吉田昌郎と福島第一原発』(角川文庫)が発売中

 しかし、朝日、毎日、NHKらはこの推本の案を採用しなかったのは「おかしい」と熱心に報道を重ねた。事実や常識などとは関係なく自分の主張を補強してくれる論があれば「それだけでいい」という姿勢にほかならない。

 昨今、マスコミやネットのその悪しき姿勢には、ますます拍車がかかっている。発言を切り取り、つなぎ合わせ、“女性差別主義者”にされた東京オリンピック・パラリンピック組織委員会会長の森喜朗氏は袋叩きに遭ってその座を追われた。山田真貴子内閣広報官の“7万円接待問題”でも、同じようにネットリンチのすさまじさを見せつけた。

 10年前の異常な東電バッシングはまだ記憶に新しい。その流れの中で風評被害は現在も続く。そのため国際社会では常識とされるトリチウム処理水の海洋放出もいまだ実現していない。福島の苦悩の最大要因は「風評被害だ」と地元福島の人々は異口同音に語る。震災10年にあたって、真に復興を妨げているのは何なのか、そのことを心に刻みたい。