生命の決定的な特徴

 ここで重要なのは、生きている細胞の成長が、特定の化学反応の直接的な原因である点だ。この例では、酵母細胞がブドウ糖をエタノールへ変えている。パスツールの偉大な貢献は、個別の事柄から一般的な事柄へと歩みを進め、重大な新しい結論にたどり着いたことだ。

 彼は、化学反応が単なる細胞レベルの興味深い特徴ではなく、生命の決定的な特徴だと見抜いた。パスツールはこのことを鮮やかに「化学反応は細胞の命のあらわれだ」という言葉でまとめた。

 現在では、あらゆる生物の細胞内で、何百何千もの化学反応が同時進行していることが分かっている。こうした化学反応が生命を司る分子を作り出し、それが細胞の成分や構造を形作る。化学反応はまた、分子の分解も行う。細胞成分を「リサイクル」してエネルギーを得るためだ。

 これらを合わせた、生命体で発生する膨大な化学反応のことを「代謝」と呼ぶ。それは生きているものが行うすべての基礎だ。維持、成長、組織化、生殖、そしてこうしたプロセスを促進させるのに必要なすべてのエネルギーの源。代謝は生命の化学反応なのだ。

(本原稿は、ポール・ナース著『WHAT IS LIFE?(ホワット・イズ・ライフ?)生命とは何か』〈竹内薫訳〉からの抜粋です)

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