小刻みに増税するなら好都合
総額表示を導入した欧州の思惑

 実は欧州では、消費税(VAT)が小刻みに何度も引き上げられてきました。欧州はもともとインフレ気味な経済のため、物価の値上がりがインフレのせいなのか増税のせいなのか、消費者にとってわかりにくいまま増税ができるという事情があります。ここに、欧州が総額表示を導入した背景があったようです。

 そして面白いことに、欧州では税率引き上げの日に一律一斉に小売店による税込み価格の引き上げが行われることもないのです。

 たとえば2010年、2011年は、それぞれ1月に消費税が増税されましたが、小売店がそれを価格転嫁したのは増税前、具体的には前年のクリスマス商戦の前です。その理由は、クリスマスのような大きな需要期であれば、消費税増税分の多少の値上げは購買意欲で吸収できるからです。

 そして面白いことに、実際に1月に増税された後、2月に取りすぎた税金分を還元するかのように小売店が値下げをします。つまり欧州では、税率引き上げ前に徐々に価格を引き上げ、需要が減少する増税後には税抜き価格を引き下げることで、増税前後に大きな駆け込み需要や反動減が発生しないという特徴があるのです。そしてその後、自然に物価が上がっていき、増税から約半年後には税抜き価格でも増税前の水準に物価が自然に戻っていきます。

 欧州の経験から言えば、日本が今後もし増税を検討するのであれば、税率を0.4~1%ずつ段階的に引き上げた方が、経済に与える影響は小さいようです。そして総額表示にすると、この小刻みな増税が消費者心理にも影響を与えにくい。そこで再び陰謀論が登場するわけです。つまり今回の総額表示によって、この先頻繁に少しずつ増税が行われていく準備が整ったのかもしれないのです。