火の発見とエネルギー革命、歴史を変えたビール・ワイン・蒸留酒、金・銀への欲望が世界をグローバル化した、石油に浮かぶ文明、ドラッグの魔力、化学兵器と核兵器…。化学は人類を大きく動かしている――。化学という学問の知的探求の営みを伝えると同時に、人間の夢や欲望を形にしてきた「化学」の実学として面白さを、著者の親切な文章と、図解、イラストも用いながら、やわらかく読者に届ける、白熱のサイエンスエンターテイメント『世界史は化学でできている』が発刊。発売たちまち1万部超の大重版となっている。
池谷裕二氏(脳研究者、東京大学教授)「こんなに楽しい化学の本は初めてだ。スケールが大きいのにとても身近。現実的だけど神秘的。文理が融合された多面的な“化学”に魅了されっぱなしだ」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。好評連載のバックナンバーはこちらから。

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ファインマンの問い

 カリフォルニア工科大学の著名な物理学者リチャード・フィリップス・ファインマン教授(一九一八~一九八八)は、『ファインマン物理学Ⅰ 力学』(岩波書店)で、「もしも(ノアの大洪水のような)一大異変が起こって科学的知識が全部失われて、ただ一つの文章だけしか次の時代の生物に伝えられない場合、最少の語数で最大の情報を込めた文章はどんなものか?」という、SF的な状況設定の問いを発した。あなたならば、どう答えるだろうか?

 物理学の教科書の冒頭にあるこの問いに、ファインマンはこのように答えた─。

「あらゆるモノは原子からできている」。

 あらゆるモノ(物質)は、原子からできている。まわりを見回しても、机も椅子も本もノートパソコンなどの固体はもちろん、蛇口をひねると出てくる液体の水もすべては物質─つまりは原子からできている。私たちのまわりにあって隙間を埋めている気体の空気も例外ではない。そしてそれらをつくっている原子は、想像を絶するほどの莫大な数が存在している。

 ビッグバン理論によれば、宇宙は約百三十八億年前に始まった。

 そして、約四十六億年前には太陽系ができた。太陽系をつくった原子はビッグバンのときにつくられた水素原子やヘリウム原子だけではなく、太陽系ができる前にあった星々が爆発するときにつくられた原子たちもふくまれている。

 地球は、宇宙の星のなかでは小さい。そのため、重力が弱いので気体になりやすい成分を重力圏内に引きつけておくことができなかった。また、太陽にある程度近いために揮発しやすいモノはほとんど地球をつくる材料にならず、岩石状のもの(二酸化ケイ素など)や金属(鉄など)がおもな材料になった。