質量が多い元素ベスト5
ちなみに、太陽系全体に存在する元素は、質量が多い順から五位までで一位 水素、二位 ヘリウム、三位 酸素、四位 炭素、五位 ネオン、となる。地球全体で質量が多い元素は、一位 鉄、二位 酸素、三位 ケイ素、四位 マグネシウム、五位 ニッケル、である。
地球全体で一位の鉄は、地球の中心にある核の主成分。二位の酸素は、気体の酸素になり、ケイ素、マグネシウム、鉄、アルミニウムなどと酸化物をつくり岩石として存在する。
さて、地球上に登場した生物は、長いあいだに水中で進化した。ついには陸上にも進出すると、その一種として人類にもなった。生物体をつくる原子は、すべて地球をつくった原子たちだ。その原子たちを辿っていくと、星々の爆発やビッグバンに行き着く。つまり、私たち人は星の子なのだ。
私たちの体をつくる原子のうち一〇億個ほどは、かつてクレオパトラの体をつくっていたかもしれないし、さらにもう一〇億個は仏陀など歴史上の人物からやってきたかもしれない。
インドにはバラナシ(ワラーナシー)というヒンズー教の聖地がある。バラナシでは、ガンジス河の火葬場(マニカルニカー・ガート)で薪の火で遺体が焼かれている。遺体は、二時間半程度で気体と煙と灰になり、灰は河に流される。インドのヒンズー教徒にとって火葬されて灰をガンジス河に流してもらうことが理想なのだろう。
人間の遺体は焼かれるとその六〇パーセント程度を占める水は水蒸気になって飛び去る。タンパク質や脂肪のほとんどは二酸化炭素と水(水蒸気)になってやはり飛び去る。煙には熱で分解された物質、灰には崩れた骨や体内のミネラル分のリン酸カルシウムなどがふくまれているだろう。
土葬では遺体が微生物で分解される。こうして空中や水中にばらまかれた原子たちは、どこかでまた別のモノの構成原子になっていく。
たとえば、木の葉の一部、魚の体の一部、ゴキブリの体の一部、他の人間の一部として。それらの新しい場所も原子たちの仮の宿である。原子たちはほとんど永遠に、滅することなく地球のなかでぐるぐる巡回している。私たちの体をつくっている原子たちは、宇宙で生まれ、さまざまな変化をくぐって、いまここにいるのだ。
(※本原稿は『世界史は化学でできている』からの抜粋です)
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東京大学非常勤講師
元法政大学生命科学部環境応用化学科教授
『理科の探検(RikaTan)』編集長。専門は理科教育、科学コミュニケーション。一九四九年生まれ。千葉大学教育学部理科専攻(物理化学研究室)を卒業後、東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻(物理化学講座)を修了。中学校理科教科書(新しい科学)編集委員・執筆者。大学で教鞭を執りつつ、精力的に理科教室や講演会の講師を務める。おもな著書に、『面白くて眠れなくなる化学』(PHP)、『よくわかる元素図鑑』(田中陵二氏との共著、PHP)、『新しい高校化学の教科書』(講談社ブルーバックス)などがある。