パーパスがなければ、DXは成功しない
堀田 さっそくですが、『ダブルハーベスト』をお読みになって、いかがでしたか?
入山 お世辞抜きに、本当にいい本だと思います。僕は自動車の一次サプライヤーの三桜工業やロート製薬をはじめ、いくつかの会社で社外取締役をやっているので、そこの社長や役員に全員読んでもらおうと思っています。
いままでAIの本というと、アメリカや中国はすごい、テクノロジーはこうなっているという事例集が中心で、AIという道具を使って何ができるか、どうすれば新しい価値をつくって収穫できるか、ということを事業と結びつけた形で整理した本はなかったと思うんです。自動化とヒューマン・イン・ザ・ループという軸でAIが実現する価値を整理した図もはじめて見たし、二重ループの話も言われてみればそのとおりというわけで、めちゃくちゃ勉強になりました。
この本でも書かれているように、AIはコモディティ化していて、どう使いこなすかが問われています。僕が最近、DXというテーマで講演を頼まれたときに最初に言うのは「デジタルは目的ではなく、手段」だということです。
堀田 大事ですね。
入山 ところが、DXを魔法の杖のように誤解している人がまだまだ多い。「デジタル化してAIを入れると、何かいいものが出てくるんでしょ?」という会社がたくさんあって、日本企業にAIを導入しようとしているグローバルIT企業も、悩んでいるのはそこなんです。
でも、大事なのは、そもそも御社は何がしたいのか。ベンチャーならすぐに答えられそうな質問ですが、レガシー系の大企業だと、なかなかはっきりした答えが返ってこない。そういうお客さんが多いと思うんです。
平野 そうですね。会社のホームページを見ても、そういった点について何も書いてないケースがあります。
入山 堀田さんが「あとがき」の中で書いているように、大事なのはまさにパーパス(Purpose)です。先にパーパスがあれば、その手段としてこういうふうにAIを使いましょうというアイデアがたくさん出てくる。けれども、パーパスがないから、デジタルを入れるのがすごく難しくなってしまう。未来やパーパスへの共感・腹落ち度と、DX&変革の進捗度合というのはワンセットなんです。
パーパスへの共感が全社にあり、かつ、デジタルがあると、DXは進みます。もしみなさんの会社がデジタル化はまだ進んでいないけど、パーパスがあるなら、いけますよと。ところが、従来型の日本企業は両方ともないわけです。そういう会社がパーパスがないまま、とりあえずAIだけ入れようとすると、確実に混乱します。
堀田 われわれの周囲もそんな話ばかりです。いろんな企業さんにハーベストループをつくってDXを推進していただきたいと思っていますが、こういう理論があったとしても、とくに大企業の中でそれをムーブメントにしていくのは難しいと感じています。社内のいろんな人を説得しなければいけないとか、現場と経営者にギャップがあるなど、さまざまな問題がある中で、入山先生はどうすればそれを乗り越えられるとお考えですか?
株式会社シナモン 執行役員/フューチャリスト
1982年生まれ。学生時代より一貫して、ニューラルネットワークなどの人工知能研究に従事し、25歳で慶應義塾大学大学院理工学研究科後期博士課程修了(工学博士)。2005・2006年、「IPA未踏ソフトウェア創造事業」に採択。2005年よりシリウステクノロジーズに参画し、位置連動型広告配信システムAdLocalの開発を担当。在学中にネイキッドテクノロジーを創業したのち、同社をmixiに売却。さらに、AI-OCR・音声認識・自然言語処理(NLP)など、人工知能のビジネスソリューションを提供する最注目のAIスタートアップ「シナモンAI」を共同創業。現在は同社のフューチャリストとして活躍し、東南アジアの優秀なエンジニアたちをリードする立場にある。また、「イノベーターの味方であり続けること」を信条に、経営者・リーダー層向けのアドバイザリーやコーチングセッションも実施中。認知科学の知見を参照しながら、人・組織のエフィカシーを高める方法論を探究している。マレーシア在住。『ダブルハーベスト』が初の著書となる。