世界のマーケットと比べて極端に小さい国内市場
入山 アメリカのGAFAや中国のBATと比べて、日本企業の時価総額ランキングがことごとく低いのはなぜか。理由の1つは簡単で、潜在マーケットが小さいからです。いまから30年以上前の平成元年(1989年)には、時価総額のトップは日本企業ばかりでした。当時はまだ新興国が育っていなかったし、EUの単一市場もなかった。中国はまだ発展途上国で、東西冷戦が終わってグローバル化が一気に進むのもまだこれから。だから、GDP世界第2位の日本市場を獲るだけで、世界のトップになれたんです。NTTが1位だったりしたのはそのためです。
ところが、この30年でガラッと世界が変わります。マーケットがグローバル化して、かつ、エマージングマーケット(新興国市場)が出てきたので、潜在的なグローバルマーケットがそもそも大きくなっているんです。アメリカはもともと人口が3億人以上いて、アメリカで勝つと英語圏のマーケットが獲れるから、20億人くらいがトータルアドレサブルマーケット(TAM:獲得可能な最大市場規模)になります。中国も人口が14億人いるし、EUの人口は7.5億人です。アフリカの人口は12億人で、インドは13.6億人、東南アジアでも6.6億人います。それと比べると日本市場の1.2億人というのは、いかにも小さい。これでは勝負になりません。
東南アジアの国はバラバラですが、配車アプリのグラブやゴジェック、ゲームやEC、フィンテックの複合企業であるシーなどは、完全に東南アジアを面で見ています。
堀田 そうですね。
入山 日本市場が絶望的に小さいことに加えて、マザーズに簡単に上場できてしまうこと自体も問題です。上場基準を厳しくすると何が起きるかというと、エグジットの手段として、もっとM&Aが起きるはずなんです。アメリカでは実際そうなっています。
M&Aによってスタートアップが大企業に買収されると、何がいいのか。上場と違うのは、ロックアップ(あらかじめ決められた拘束期間)が済んだら、だいたいそこの社長は辞めるんです。大企業はつまらないから。すると、今度は手元にお金があるから、2発目はもっと大きな事業を狙えます。いわゆる連続起業家、シリアルアントレプレナーです。
イーロン・マスクはまさにその典型で、2社目、3社目、4社目で、ドカンと大きなのが出てくるわけです。ところが、日本はマザーズで簡単に上場できてしまうので、社長はなかなか変わりません。同じ会社でずっとたゆたってしまうというのが現状です。
堀田 めちゃくちゃわかります。
入山 もちろん、僕はベンチャーをやる人はみんなリスペクトしているので、彼らの問題というよりも、日本の仕組み自体の問題だと思っています。
堀田 ベンチャーの立場からすると、上場のプレッシャーもあるし、上場した後も実績を出し続けなければいけないという制約の中で、グローバル展開すると、どうしても利益が下がってしまうという問題があります。その結果、永遠に海外進出の意思決定をさせてもらないというのは感じていて。それを押して海外に行くには、そういうことに理解があるベンチャーキャピタリストが入ってこなきゃいけないということになって、それはそれでハードルが高いなと。
入山 とはいえ、そういう意識のあるVCや、大手企業でそういうサポートをするところが出てきています。たとえば、ネットショップ開設支援サービスのSTORESを展開するヘイは、ベインキャピタルから新たに出資を受けています。ヘイはもう上場できるレベルですが、もっと頑張ってほしい、時価総額をもっと上げてからユニコーンになってほしいという思いがあるそうです。そういう機運は出てきているので、うまくそういう人たちを使ってほしいですね。あとは、社長の胆力というか、踏ん張って世界を獲るぞという強い気持ちが重要です。
(第2回に続く)