全く身に覚えがない。しかし、犯行予告が行なわれたのは、間違いなく自分のパソコンから。形跡はたしかに残っており、言い逃れはできない――。サイバー犯罪によって一般人が犯人に仕立て上げられる事件が、全国で頻発している。原因は、パソコンを遠隔操作するウイルス。急増する悪質な手口は、もはや警察の手に負えないほど多様化・複雑化している。「犯罪者製造ウイルス」から身を守るためには、どんな知識を持ち、何を心がけるべきか。専門家の意見を交えながら、徹底検証する。(取材・文/岡 徳之、協力/プレスラボ)
身に覚えのない犯行予告で逮捕される?
冗談にならない「パソコン遠隔操作事件」
身に覚えのない犯行予告が、何者かによって自分のパソコンから送信された形跡がある。万一こんな事態が発生し、警察に連行されて詰め寄られたとしたら、あなたは切り抜けられるだろうか――。
これは、パソコンを所有・利用している全ての人に降りかかる可能性があるトラブルだ。「そんなこと、自分の身に起きるわけがない」とタカをくくっていてはいけない。実際、そんな事件に巻き込まれ、犯罪者に仕立て上げられて疲弊している一般人が増えているのだから。
10月上旬、ウェブサイトやインターネット掲示板で犯罪を予告したとして、男性2人が逮捕された事件は、世間に衝撃を与えた。無差別殺人を予告したとして大阪府警に逮捕され、業務妨害罪で起訴されていたアニメ演出家の北村真咲さんと、伊勢神宮の破壊を予告する書き込みをしたとして、三重県警に威力業務妨害容疑で逮捕されていた無職の男性だ。「身に覚えがない。誰かにパソコンを操作されたとしか思えない」と、2人は無実を訴えた。
事件が動いたのは10月10日夜。TBSテレビに自ら真犯人を名乗るメールが届いた。メールの件名には「私が真犯人です」。本文には「大阪・三重の遠隔操作ウイルス事件について、私が犯人です」とあり、さらに警察当局が公表していない情報が含まれていることから、警視庁捜査1課は緊急捜査に乗り出した。その結果、2人の無実は証明され、釈放されるに至った。