スタンフォード大学・オンラインハイスクールはオンラインにもかかわらず、全米トップ10の常連で、2020年は全米の大学進学校1位となった。
世界最高峰の中1から高3の天才児、計900人(30ヵ国)がリアルタイムのオンラインセミナーで学んでいる。
そのトップがオンライン教育の世界的リーダーでもある星友啓校長だ。
全米トップ校の白熱授業を再現。予測不可能な時代に、シリコンバレーの中心でエリートたちが密かに学ぶ最高の生存戦略を初公開した、星校長の処女作『スタンフォード式生き抜く力』が話題となり、ロングセラーとなっている。
ベストセラー作家で“日本一のマーケッター(マーケティングの世界的権威・ECHO賞国際審査員)”と評された神田昌典氏も「現代版『武士道』というべき本。新しい時代に必要な教育が日本人によって示されたと記憶される本になる」と語った本とは一体なにか。
このたびハーバードとスタンフォードで修士号を取得し、教育起業家として活躍中の松田悠介氏が初対談。今後の日本と海外の教育環境のゆくえを紹介しよう。(これまでの人気連載はこちら)。
日本のオンライン教育と
ゆとり教育のディープな関係?!
Crimson Education Japan代表取締役社長。オンラインインターナショナルスクール「Crimson Global Academy」日本代表
大学卒業後、体育教師、千葉県市川市教育委員会 教育政策課分析官を経て、ハーバード教育大学院で修士号を取得。その後、学習支援を展開するLearning For Allを設立。同社CEOを2016年6月に退任。2018年6月にはスタンフォード大学経営大学院(GSB)ビジネススクールで修士号取得。
日経ビジネス「今年の主役100人」(2014)に選出。世界経済会議(ダボス会議)Global Shapers Community 選出。2017年には日本財団の国際フェローに選出。2019年より、文部科学省 中央教育審議会委員を務める。
著書に『グーグル、ディズニーよりも働きたい「教室」』(ダイヤモンド社)がある。
星友啓(以下、星):ユネスコの発表によると、コロナで世界16億人が学校閉鎖などの影響を受け、多数の子どもたちがオンライン授業によるリモート学習の必要性に迫られました。
最近の調査結果を見ると、「今までの学校に戻りたくない」という子どもたちや、「オンラインもありだと思った」という保護者もいて、オンライン教育がだいぶ身近になりました。
一方、緊急時のオンライン対応でうまくいかず、大半の生徒や保護者は「オンライン教育はよくない」「早く対面に戻りたい」など、オンライン教育への懐疑的な見方が広がったような気もします。
松田さんは日本のオンライン教育の現状をどう見ていますか?
松田悠介(以下、松田):よいという人もいますが、ダメという人もいます。
オンライン教育に関しては一歩目を踏み出したところで、日本はうまくいっていないところがほとんどです。それを見て、「対面じゃなければ」と考えるのは時期尚早だと思います。
元々の対面教育尊重型の3~5年前の形に戻ろうとして、今までの状態に「正常化させる」動きも残念ながらありますね。ここは改善すべきポイントだと思います。
歴史は繰り返すではないですが、ゆとり教育も象徴的です。
1970年代の文部科学省の中央教育審議会の方針によると、高度経済成長期で「ジャパン・アズ・ナンバーワン」当時の文部科学省の会議では、「このままではいけない」「知識偏重型の教育をやってもダメだ」「子どもたちの主体性が育まれない」「社会と接続できていない」「時代を作る人になれない」という話題が持ち上がりました。
そこで、詰め込む知識量を減らそうと総合学習を作り、社会とつながるボランティアの機会、プロジェクト学習をさせていこうという流れになったのです。
世界で一番、経済がいい時代に「次に行く」という話がなされていたのです。
そこで実際に、時間を確保するために、学習指導要領が変わり、詰め込む量を減らし、総合学習を作って実行した結果、PISA(OECD生徒の学習到達度調査)のスコアが下がりました。
これが「PISAショック」です。
これに基づき、「ダメじゃないか」と日本のメディアは騒ぎ立てました。
結果、「脱ゆとり」の流れになり、元に戻した。
どう戻したかというと、前の教科書の内容から20%増しくらいにリバウンドさせたのです。せっかく時代に合った教育を歩み始められる機会だったのに、一気に戻ってしまった。同じことが今回、起こっています。
「オンライン教育だ」と騒いでも、やってみるとうまくいかない。
ゆとり教育の短期間の結果だけを見て、「ダメじゃないか」と、昔の詰め込み型教育を「正常化」しようとする。
この2つの流れは同じです。今回もオフライン教育からリアル教育に「正常化」しようという動きが大きくあるのは心配です。
星:そのとおりですね。緊急対応でちょっとやってみたところで、オンライン教育自体のよし悪しなのか、その対応のよし悪しなのかはわからない。
伝統的な教育法と一緒で、生徒のニーズや年齢、目標によって、全く違ったオンライン教育の形があります。
私が勤めているスタンフォード大学・オンラインハイスクールのやり方をすべての学校に当てはめるのは無理があり、全世界の生徒たちに効果的なやり方とも思えない。
重要なのは、生徒と自分の教育理念に立ち返り、それに適したオンライン教育の方法や応用を試行錯誤することだと思います。