ちなみにそのお店は、居酒屋甲子園というイベントで高い成績を出したスタッフがいるお店のようで、声が大きく元気にサービスするのが特徴。その元気さを「情熱」と捉えて彼らの姿勢を見せたいと思ったようです。

 もちろんスタッフは情熱をもって仕事に取り組んでいるように思えましたが、上司は表面的な姿勢ばかりを情熱と感じているようで、Cさんは「明日から大きな声で話すようになれば情熱を感じてくれるんですかね」と嘆いていました。

 かつて私も「本気さを感じられない」と上司に言われたことがあります。何を求めているのか全くわからず、大いに悩みました。いまとなって考えると、「もっと細かく報告が欲しい」とか、「発言するときの声を大きくはっきりしてほしい」とか、そんなことを求められていたのだなと感じます。

 仕事に対する想いや夢、さらには、それを体現する仕事ぶりや、テキパキした姿勢やスピード感といった、本質的な情熱の意味を理解して要求してくるのであれば、部下も理解はできます。ところが、何だかよくわからない「気合のようなもの」を求められると、モチベーションは下がるだけです。「よし頑張ろう」と意欲が上がる人はまずいないでしょう。

 そもそも「情熱」とは何でしょうか?情熱という言葉を仕事で一般的に表現するなら「こだわり」と言えるかもしれません。

 たとえば、ビールメーカーの営業が「休日も散歩しながら自社製品の陳列状況を観察してしまいます」と仕事に対する想いを語ってくれたとしましょう。たとえ声が小さくても、「繁盛している店舗の陳列方法はメモをして、取引先にも紹介するように心がけています」と話してくれる人には、情熱は感じるのではないでしょうか。

モチベーション下げマンとの戦い方モチベーション下げマンとの戦い方
西野一輝 著
定価869円
(朝日新書)

 古い話ですが俳優の高倉健さんが「不器用ですから……」と小声で語るCMがありました。言葉数が少なくとも情熱を感じたものです。

 先のCさんのような“気合系情熱”を求める人は意外に多いものです。そんなとき、あくまで自分のペースで仕事に対する想いを語るのは、一つの方法です。それで十分に伝わる可能性が高いでしょう。

 もし伝わらないようであれば、勘違い上司。スルーしてかまいません。その要求にどう応えようかと悶々と悩み、モチベーションを下げるのはあまりにもったいない相手です。

 なぜなら時代遅れのマネジメントなので、やがて消えていく存在だからです。ただ、相手が上司であるなどしてあまりに負担になる状況が続けば、上司を飛び越えてマネジメントに対する不満を人事や役員に伝えるのもいいでしょう。

 もはや、“気合系”の要求をすることはパワハラとされる可能性もあるからです。

西野一輝
■西野一輝(にしの・かずき)/経営・組織戦略コンサルタント。大学卒業後、大手出版社に入社。ビジネス関連の編集・企画に関わる。現在は独立して事務所を設立。経営者、専門家など2000名以上に取材を行ってきた経験を生かして、人材育成や組織開発の支援を行っている。

AERA dot.より転載