パワハラ防止法が施行、「企業の新たな義務」と注意点を弁護士が解説6月1日、パワハラ防止法が施行されました。企業はどう対策すべきでしょうか? Photo:PIXTA

6月1日、企業にパワハラ防止対策を義務付ける「改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)」が大企業を対象に施行された。都道府県労働局に集まる「いじめ・嫌がらせ」の相談件数は直近の公表データである2018年度に8万件を超え、法の整備が急務とされていた。パワハラ防止法は、パワハラ対策に向けて大きな前進とみられる一方で、対象や定義が限定的との見方もある。企業はこれからどのようにパワハラ対策に取り組んでいけばよいのか。長年労働問題に取り組んできた弁護士の笹山尚人氏に話を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 笠原里穂)

法律でパワハラ対策が義務化
何が変わる?

――今回のパワハラ防止法で一番大きく変わることは何でしょうか。

 これまではパワハラに関して対策すべきことが法律上の義務として定められていませんでしたが、とにもかくにも「なんらかの対応をしなければならない」ことが法律上の義務になったということが、今回の法律で一番大きく変わる部分だと思います。

――パワハラ防止法の施行に向けて厚生労働省が発表した指針の中では、パワハラ6類型(※1)が挙げられています。パワハラと一言で言ってもさまざまなケースがあると思いますが、企業が特に注意しなければならないケースはどういったものでしょうか。
※1厚生労働省が発表した指針より
代表的な言動の類型として「身体的な攻撃」「精神的な攻撃」「人間関係からの切り離し」「過大な要求」「過小な要求」「個の侵害」の6種類を明示

 厚労省が指定したパワハラ6類型は、過去に裁判で扱われた事例を基に整理しているので、現在どのケースが多いかを表すものにはなっていません。たとえば、「個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)」といわれるタイプのものは、パワハラが問題になり始めた2000年初めごろから16~17年くらいまでは割と多かったんですが、今はあまり見ないですね。

 逆に今、相談例として多いのは、業務上の指導や、職場における人間関係のトラブルで問題になるケースです。特に上司の部下に対する「行きすぎた指導」に関しては、やはり一番問題になりやすいですし、企業側としても注意すべきポイントだと感じます。

――業務上の指導に関しては、パワハラに当たるかどうかの線引きが難しいという声もあります。

 企業では、「部下との関係の中で何を言ったらハラスメントになるのか」「どういう態度に気を付ければいいのか」といったことが問題になりますが、そうした中で私がお伝えしているのは、まずは「部下をよく把握するようにしてほしい」ということです。

 ハラスメントの加害者は瞬間的な怒りをそのまま言葉にしてしまっているケースが多いです。そうならないためには、「相手にこれを言って伝わるだろうか」ということを一度きちんと考えて発言することが大切です。相手に何を求めているのか、相手のどこが足りないのかを、部下の特性を理解した上で具体的に指摘する。上司自身がハラスメントから身を守るためにも、「きめ細かいマネジメント」が重要だと思います。