「土地と資源」の奪い合いから、経済が見える! 仕事に効く「教養としての地理」
地理は、ただの暗記科目ではありません。農業や工業、貿易、交通、人口、宗教、言語にいたるまで、現代世界の「ありとあらゆる分野」を学ぶ学問です。また、2022年から高等学校教育で「地理総合」が必修科目となることが決定しました。
地理という“レンズ”を通せば、ダイナミックな経済の動きを、手に取るように理解できます。地理なくして、経済を語ることはできません。
本連載の書き手は宮路秀作氏。代々木ゼミナールで「東大地理」を教えている実力派講師であり、「地理」を通して、現代世界の「なぜ?」「どうして?」を解き明かす講義は、9割以上の生徒から「地理を学んでよかった!」と大好評。講義の指針は、「地理とは、地球上の理(ことわり)である」。6万部突破のベストセラー、『経済は地理から学べ!』の著者でもあります。
1979年、「一人っ子政策」を導入した理由
中国は1949年の建国以来、治安の維持、社会保障の充実、医療や衛生の改善などを進め、人口を急増させます。しかし急激な人口増加と、そこから引き起こされる食料不足を懸念し、1962年から都市部に限定して人口抑制政策が始まります。
全国的に一人っ子政策を導入したのは1979年です。一人っ子政策とは、1組の夫婦につき子どもを1人に制限するものです。
一人っ子政策において、「子どもは1人で十分!」と宣言した夫婦には、下記のような特典がありました。
①月収の約1割の奨励金を子どもが14歳になるまでもらえる
②学費免除
③学校への優先入学
④医療費の支給
⑤就職の優先
⑥都市部における住宅の優遇配分
⑦年金の加算
逆に、2人目をもうけた家族には罰金が科されました。その額は、年収相当の数年分というから驚きの額です。
しかし農村部においては、まだまだ高度に機械化された農業経営ではないため、労働集約型の農業経営が行われていました。つまり子どもは貴重な労働力であり、特に男の子が好まれました。
そのため「女の子や次男、三男が生まれても、戸籍に登録しない」ということが起こります。これは戸籍上の男女比がアンバランスになるという問題を発生させました。
こうした無戸籍児童は「黒孩子(ヘイハイズ)」と呼ばれました。多くの黒孩子が女の子です。学校に通えず、医者にもかかれず、この世に存在しないことになっている子どもたちです。2010年の国勢調査では、黒孩子が約1300万人いることがわかりました。
一人っ子政策によって人口急増の抑制には成功しました。しかし、急速な少子化は急速な高齢化をもたらしました。老年人口割合が7%を超えると高齢化社会といいます。中国は2002年に7%となり、以後も老年人口割合は上昇し続け、2019年には11.4%になりました。