「土地と資源」の奪い合いから、経済が見える! 仕事に効く「教養としての地理」
地理は、ただの暗記科目ではありません。農業や工業、貿易、交通、人口、宗教、言語にいたるまで、現代世界の「ありとあらゆる分野」を学ぶ学問です。また、2022年から高等学校教育で「地理総合」が必修科目となることが決定しました。
地理という“レンズ”を通せば、ダイナミックな経済の動きを、手に取るように理解できます。地理なくして、経済を語ることはできません。
本連載の書き手は宮路秀作氏。代々木ゼミナールで「東大地理」を教えている実力派講師であり、「地理」を通して、現代世界の「なぜ?」「どうして?」を解き明かす講義は、9割以上の生徒から「地理を学んでよかった!」と大好評。講義の指針は、「地理とは、地球上の理(ことわり)である」。6万部突破のベストセラー、『経済は地理から学べ!』の著者でもあります。
ドイツの食文化を「地理」から読み解く
ドイツには、「ジャガイモでフルコースの料理を作れない女の子はお嫁にいけない」という言葉があるそうです。ジャガイモは、ドイツの食卓に欠かせない食材だといえます。
衣食住は、各地の自然環境に対して最適な形で発展します。水が豊富な地域では米を栽培し酒の文化が生まれ、比較的降水量が少ない地域では石造家屋が作られてきました。
ヨーロッパにおける北緯50度以北というのは、今から2万年前の最寒冷期に大陸氷河によって覆われた地域です。そのため氷河侵食を受けて、腐植層(ふしょくそう)が薄くなっています。つまり地力が低く、大規模な小麦栽培は困難な地域です。
地力が低くても育つ農作物、それはジャガイモでしたね。ドイツは国土の中央部を北緯50度が通過します。そのため、ドイツでは古くからジャガイモを育ててきました。
ヨーロッパでジャガイモが広まった理由
ジャガイモの原産地はアンデス地方といわれています。現在のペルーからボリビアにかけての地域です。ヨーロッパ人はジャガイモを持ち帰るのですが、最初は人気のない食べ物でした。それは見た目が悪いという理由からです。
そこでジャガイモを普及させようと尽力した人がいました。その人物は、第3代プロイセン王フリードリヒ2世(1712~1786年)です。
プロイセンとは、現在のドイツ北部から、ポーランド西部にかけて広がる国です。ドイツの土地は農業生産性が低いので、彼は寒冷の痩せ地でも育つジャガイモ栽培を奨励しました。自ら毎日のようにジャガイモを食べ、模範を示したといいます。
この結果、ドイツだけではなく、デンマークやポーランドにおいてもジャガイモを食べる習慣が根づきました。