「土を耕したい」と言ったIT起業家

 次回掲載号(11月27日)にも書く予定だが、「アフリカへ行きたい」と訴えて私のもとを訪れる日本人は結構いる。たいていは大学生だが、なかにはすでに専門の仕事を持っている社会人もいる。

 最近、あるIT起業家と知り合った。まだ30代半ばだが、すでに成功し30代前半にして年収は10億円を超えていたらしい。もちろん生活は悠々自適で、ゴルフ三昧の日々を送っている。私の30代前半といえば、結婚したものの定職にも就かず、でも漠然と「留学をしていたアフリカに戻って何かやりたいなあ」と思いながら当てもなくパチンコ屋に通う日々だった。そんなことを思い返しつつ、彼の話を聞いていた。

 別の日には、FTSEグループに務める女性とも話す機会があった。FTSEグループといえば、ロンドン証券取引所の子会社で債券や株のインデックス(指標)を作っている企業だ。

 二人には共通するものがあった。それは、「土」への憧れ。アフリカで土地を耕して、ナッツやコーヒーの木を植えて収穫する。そういう本当に原始的で、肉体的な仕事に二人は強く惹かれたらしい。結局、二人には、これからルワンダ、ウガンダ、ブルンジで新たにはじめようとしている農業資材ビジネスに協力してもらうことになった。

 普通に暮らしていれば命が危険にさらされることなど万に一度もないような環境で、頭脳をフルに発揮しエリートとして生きている二人。その二人が、アフリカの地で作物を育てるという、このうえなく泥臭い仕事に惹かれるのは、考えてみれば、皮肉なことだなあ、と思う。

 「未来はアフリカにあるのかもしれない」。50年前に初めて足を踏み入れた時には思いもしなかったけれど、今になると、そう実感する。人類は与えられた頭脳を働かせて、便利なものを次々に生み出し、複雑な経済や社会のシステムを作り出しはしたけれど、最後の最後に求めるのは、人間としてではなく動物として土に触れたり、何一つさえぎるものがない大空を眺めたりすることなのかもしれない。

                   (次回は11月27日更新予定です)