給料が上がったら、仕事を辞めろ
大学を休学し、インターンとしてルワンダの会社で働いていた女性と、久しぶりに会った。彼女には、現地で10ヵ月のあいだバイオ液を売る仕事をしてもらった。
ルワンダに限らずアフリカでは、地面に穴を掘っただけのいわゆる「ぼっとん便所」がまだまだあって、あちこちで耐え難い悪臭を放っている。一本(1リットル)1ドルのバイオ液を撒くだけで、悪臭が嘘のように消えてしまう。リュックサックを背負って国じゅうの村や役所、刑務所、学校、病院などを回り、バイオ液の売り込みをするのが、インターンとしての彼女の仕事だった。
インターンを終えた彼女は帰国して就職活動をはじめて大手商社やメーカーから複数の内定をもらい、最終的に外資系の食品メーカーに行くことを決めた。彼女がその会社を選んだのは、発展途上国市場を意識したBOP(*)ビジネスに積極的に取り組んでいるからだと言っていた。
インターンを終え企業に就職していく学生たちに向かって、私は一つのアドバイスをすることにしている。「給料が上がりはじめる前に会社は辞めなさい」。20代の頃、安月給でこき使われているあいだはいい。でも、30歳を過ぎて生活に余裕ができ、車や家が欲しくなったら辞めなさい、と。
「外へ出たい」という衝動を、若い人は誰でも持っている。ところが大人になるにつれ、その衝動は弱くなってしまう。自由になる金が増えて、一度手に入れると手放せないような便利なモノをたくさん身にまとってしまうからだ。それと同時に、社会人として、家庭人として、大人として、実にさまざまな「常識」や「通念」みたいなものにがんじがらめにされてしまう。
分別盛りの40代になっても、老成すると言われる60代になっても、どうすれば自由に、「明日はどんな一日になっているのだろう」とワクワクしながら、「発展途上の自分」を生き続けることができるか。発展し尽くしてしまった今の日本で、どうすればそういう生きかたができるか。今の私にとって、それが一番の問題関心でもある。
(*)Bottom of the Pyramidの略。世界でもっとも所得の低い40億人をターゲットとして、途上国の生活向上と営利活動を両立させようとするビジネス手法のこと。