「東芝報告書」が示唆した、政府介入にとどまらない本質的問題の正体Photo:ullstein bild/gettyimages

東芝の株主総会運営の適正性について調査を行った弁護士が、「東芝と経済産業省が緊密に連携し、株主に対して不当な影響を与えた」とする報告書を公表した。経産省は反論しているが、このような疑義が生じていること自体が、資本市場の信頼性を低下させ、国益を大きく損ねている。東芝と経産省は、一刻も早く事実関係を明らかにし、今後のガバナンスのあり方について明確な方針を示すべきだろう。(経済評論家 加谷珪一)

激震が走った「東芝報告書」
本質的問題とは何か

 今回の調査は、東芝の筆頭株主であるエフィッシモ・キャピタル・マネジメントによる株主提案がきっかけとなっている。同ファンドは東芝の株主総会運営が公正ではなかったと考えており、外部の弁護士による調査を求めていた。株主総会で当該議案が可決されたことから調査が行われたが、そもそも、こうした議案が可決されることは極めて珍しい。それだけ東芝の株主が経営陣に対して不信感を持っていたことをうかがわせる。

 調査は約3カ月にわたって実施され、2021年6月10日に報告書が公表された。報告書では20年7月の株主総会について、東芝が「経産省に支援を要請」し、同省と東芝が連携して「不当な影響を一部株主に与えた」としており、株主総会について「公正に運営されたものとはいえない」と結論付けている。

 株主総会という会社法によって厳密に定められた手続きに対して、政府が介入し公正な運営を妨げたというショッキングな内容であり、市場には激震が走っている。経産省側は反論しているが、独立した立場の弁護士がこうした報告書を出した現実はあまりにも重い。今回の一件がもし事実であれば、単に官庁がルールを破ったというレベルの話ではなく、日本における資本主義制度そのものが問われる事態と言ってよいだろう。

 市場の透明性というのは資本主義国家にとっては生命線であり、100年単位の国益がかかっている。以下では、なぜ市場の透明性が重要なのか、そして今回の一件が、いかに大きな問題をはらんでいるのかについて解説する。