「ダイバーシティ&インクルージョン」のあるべき姿は?
障がいの有無にかかわらず、変わりゆく社会情勢の中で一人ひとりが個性で輝いていくことの大切さ。それを「Co-Co Life☆女子部」の誌面や守山さんの言葉から再認識できる。NPO施無畏の理事・扇強太さん*9 は、同団体のあり方を次のように説明する。
*9 扇強太さんは大手製薬会社で営業部エリアマネジャーを務めたのち、その、典型的な「大手の企業人」「男性社会」の世界を飛び出し(早期退職し)、NPO施無畏の専任スタッフに飛び込んだという経歴を持っている。
扇 当団体の業務では「配慮はするが、遠慮はしない」という姿勢を大切にしています。たとえば、障がい当事者にも公平に、原稿の執筆、団体事務など一定の役割や責任を与えます。その遂行のプロセスをよく見て、できたら褒め、できなかったら単なる叱責ではなく、理由→課題→対応策というPDCAを回しています。一般企業で若手を育成するのと同じですよね。
「バリアフリー」には、権利もありますが、義務もあります。健常者と区別せず、障がいによって「できないこと」ではなく、「できること」に着目する。仕事を任せて、同じ土俵に立ってもらう…ということは、下駄を履かせず、同じ基準で評価もするわけです。ただ、そうはいっても、障がいや難病ゆえに社会経験や就業経験が少ない・ない人も多く、それは明らかなハンデです。特に業務が重なったときなどは優先順位がつけられず、多少パニックになる傾向がありますが、同時並行でたくさんのプロジェクトが動く「仕事の現場」にいた経験がそもそも少ないんですね。経験の有無は、本人だけではなく社会の問題でもあるので、配慮、サポートしながら人を育成するのが大切だと思っています。
NPO施無畏の理事で「Co-Co Life☆女子部」の副編集長を務める関由佳さん*10 が、扇さんの言葉を受けて、編集部の様子を教えてくれた。
*10 プロのライターでもある関由佳さんは、幼い頃から知的障がいの叔母と同居していた経験がある。また昨年2020年、連れ添ったご主人を病気で亡くし、現在は看取り関連の執筆を精力的に行っている。
関 編集部でスタッフと仕事をするときは、「障がい者」と「健常者」という線引きをあまりしていません。障がいの有無に関係なく、お互いに得意なことは生かして、苦手なことはサポートし合える体制を作っています。できないことを「できない」と言える環境は、意外と一般の職場では難しいことのように思うんですね。でも、「Co-Co Life☆女子部」ではそれを当たり前にしています。特別にそれが「理想」の姿だと思って実践しているわけでもないのですが、自分を含めたみんなが働きやすい環境にするために、常にフラットな目線を意識しています。
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「ダイバーシティ&インクルージョン」という言葉が先行し、多くの人がその理念や姿勢を追い求めがちだが、「Co-Co Life☆女子部」をつくるNPO施無畏のメンバーには、“過剰な力の入れよう”は見当たらない。
守山 私自身には、「(ダイバーシティ&インクルージョンの)理想を語る」というような気負いはあまりありません。それは、「ダイバーシティ=当たり前」という感覚が以前からあるからでしょう。理由は、自分では3つ思いあたります。
一つめは、私が美術大学の出身で、個性が強い学生たちと長い時間を過ごした経験です。教授陣からも、事あるごとに「他の人と違うことをせよ」と言われ、個性や独自性についてとことん考え、制作の手を動かし続けた4年間でした。
二つめは、社会に出て、広告会社・出版社に16年間勤めたこと。芸能界、多様なクリエイターや作家さん、ファッション業界の人たち、そして、LGBTQの方々と長く仕事をしました。芸能やメディアの業界では、個性や独自性は重要視されますし、奇抜であることも基本的に称賛されます(笑)。昔からゲイであることを表明しているクリエイターさんも多いですね。私にとって、「多様性」と「ワクワク」は同義語でした。
三つめは、私の家族には障がい者がいて、また、末期がんの父を看取った経験があることです。さらに自分自身も病気や手術を経験して、障がいや難病はいつも人生の隣り合わせにあると感じています。
「Co-Co Life☆女子部」のスタッフとしてこの団体に加わったときは、確かに「障がい当事者の、かわいい女子の集団とは、珍しいな」と驚きました。でも、いまは「いろんな人が世界にいるなあ」という程度の感覚です。障がいや難病の当事者の中で、飛び抜けて面白い人、言葉が強い人、珍しいことをしている人、個性が強い人などを見つけ出し、「面白い人がいるよ」と世間に紹介するのが、私は好きなんです。「Co-Co Life☆女子部」が、ダイバーシティ界の旗印として、憧れの存在になれたらうれしいですね。
※本稿は、現在発売中のインクルージョン&ダイバーシティマガジン「オリイジン2020」からの転載記事「ダイバーシティ」が導く、誰もが働きやすく、誰もが活躍できる社会」に連動する、「オリイジン」オリジナル記事です。