カラフルな表紙に、笑顔の女性の写真。キャッチーなコピーや特集タイトルが躍る雑誌「Co-Co Life☆女子部」。一見、一般のファッション誌のようだが、実はこの雑誌に登場するモデルは全て「障がい」や「難病」の女性たち。記事を執筆しているライターも障がいや難病の当事者だ。キャッチコピーは、「こころのバリアフリー&ビューティーマガジン」。いったい、どのような人たちが、どういう意図で制作しているのか? その発行元を「オリイジン」が取材した。(ダイヤモンド・セレクト「オリイジン」編集部)
*本稿は、現在発売中のインクルージョン&ダイバーシティ マガジン 「Oriijin(オリイジン)2020」からの転載記事「ダイバーシティ」が導く、誰もが働きやすく、誰もが活躍できる社会」に連動する、「オリイジン」オリジナル記事です。
一度は資金が尽きて休刊。東日本大震災を機に復活
来年2022年に創刊10周年を迎える「Co-Co Life(ココライフ)☆女子部」――まずは、創刊のきっかけを、この冊子(以下、メディア、媒体)の発行元であるNPO施無畏(せむい)*1 の代表理事・遠藤久憲さんに聞いた。
*1 「施無畏(せむい)」は、仏教用語で「畏(おそ)れること無く、施(ほどこ)す」の意味。NPO施無畏は特定の宗教とのつながりはない(仏教系ではない)が、この言葉を気に入った「Co-Co Life」初代発行人が「施無畏(せむい)」とネーミングした。団体は2006年の設立で、今年2021年に15周年を迎えた。
遠藤 2007年に創刊した“障がい者向けの有料雑誌”「Co-Co Life」は、障がい当事者全般を読者ターゲットとし、内容はユニセックスなものでした。一般誌のクオリティーを実現しつつ、「障がい者向け」の個性的なメディアだったと自負していますが、紙メディアを継続するための資金的ハードルを越えられずに3年で休刊(2011年1月)。そして、休刊後すぐに東日本大震災が起きました。震災で、「情報提供の必要性」「社会的弱者の支援」「ロールモデルの必要性」など、私はさまざまなことを考えました。何よりも、メディア人として、「読者の笑顔をつくる」ミッションを感じました。「Co-Co Life」休刊以来、ずっとモヤモヤした気持ちで過ごしていたのですが、東日本大震災を契機に、「やるべきことは障がい者メディアの再発刊」だと改めて決意したのです。
当時、新聞社に勤めていた遠藤さんは、媒体のアートディレクターを務め、編集・ライタースクールでの講師役も担うなど、「メディア」への造詣が深く、その知見と情熱を障がい者向けマガジン「Co-Co Life」に注いだ。当初から現在まで媒体の制作にはボランティアで加わり、500名を超える障がい者を取材したという。
遠藤 「Co-Co Life」の失敗教訓を生かし、再創刊ではまずは何より読者に届けやすくしようと思いました。そこで「フリー(無料)メディア」にすることを決意。フリーメディアでやるからには、読者ターゲットを絞り、とんがるしかないと。とんがることで、読者の熱い支持を獲得する見通しを立て、媒体を継続していくための戦略を立てていきました。そこで「Co-Co Life☆女子部」という雑誌名に改称し、女性をターゲットにしたのです。「障がい者向け」の誌面の中で、「おしゃれ」を大切にして、ファッションやメイクなどの情報を掲載し、一般的な女性誌と遜色ないメディアとしてリ・スタートしました。「女子部」創刊号の発行は2012年8月でした。
有料誌からフリー(無料)メディアへの転換、それに伴うターゲットとテーマの絞り込みで新たな船出をした「Co-Co Life☆女子部」。その企画から制作過程において、特に苦労した点は何か。
遠藤 「当事者がつくるメディア」というコンセプトで、障がい当事者を誌面づくりのスタッフに据えたのですが、スタッフ教育の部分では苦労しました。発信したい思いはあるものの、仕事でメディアづくりなどは全くしたことがないスタッフばかり。一般的な女性誌と遜色ないレベルに雑誌を仕上げるために時間がかかりましたね。スタッフも、泣きながら何度も原稿を書き直したりしました。メディアづくりのプロにはできない、読者の気持ちが分かる「当事者がつくる」というところにこだわったのです。
創刊から10年あまりがたった現在では、読者は障がい・難病の当事者やその家族、支援者へと広がり、事業に共感した編集・ライター・写真・デザインなどのプロも制作チームに加わっているという。また、「SNSで発信するのが好き」「書くのが好き」といったスタッフを集めて、執筆の技術や、著作権・個人情報保護法に関するレクチャーを行うなど、スタッフ教育も欠かさず行っている。フリー(無料)メディアなので販売収入のない「Co-Co Life☆女子部」だが、前身の「Co-Co Life」で腐心した「資金的ハードル」は越えられているのか?
遠藤 媒体の発行において、必要資金の確保には苦労しました。創刊当時は、発起人によるシードマネー*2 と、個人協賛・団体協賛、誌面への広告掲載という3つが資金源でした。発行して間もない頃から現在まで、テレビや新聞などではよく「Co-Co Life☆女子部」が取り上げられ、読者サポーターは順調に増えて来ましたが、スポンサーの獲得には苦労しました。経費削減のため、創刊時はカラー24ページだったものを、途中からカラー16ページに縮小して、発行継続を優先しています。いま現在は、ユニバーサルデザインのコンサルティング(企業による商品開発の支援)、フランチャイズ化(地方版の発行)、外部での講演・執筆、人材紹介のコーディネート、公益団体による助成金の活用など、さまざまな資金源を持って運営している状況ですが、決して安泰ではなく、団体を回していくのに精いっぱいというのが正直なところです。
*2 新しいビジネスやプロジェクトを始めるときやその準備段階において必要となる資本のこと