近年、大企業からスタートアップまで、HRテクノロジーを利用して、タレントマネジメントを強化する企業が急増している。従業員一人一人のデータベースを構築し、データ分析に基づいた採用・育成・評価・最適配置・組織改善などを行い、個々の人材のスキルや能力などを最大限に引き出すのが狙いだ。労働力人口の減少や人材の流動化、採用難が続く中、企業はHRテクノロジーにどう向き合い、どのように活用していくべきだろうか。慶應義塾大学の岩本隆特任教授に聞いた。
特任教授
東京大学工学部金属工学科卒業。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院工学部材料学科Ph.D.。日本モトローラ、日本ルーセント・テクノロジー、ノキア・ジャパン、ドリームインキュベータを経て、2012年より現職。
HRテクノロジーを用いた人材活用が重要視される理由
タレントマネジメントとは、従業員一人一人の能力や資質、スキルなどを把握し、採用、育成、評価、最適配置、組織改善などに生かして個人とチームのパフォーマンスを最大化する取り組みを指す。
なぜ今、HRテクノロジーを利用したタレントマネジメントが重要視されているのか。HRテック研究の第一人者、慶應義塾大学の岩本隆特任教授は、その主な理由として国内の産業構造の変化と第4次産業革命を挙げる。
「現在、日本のGDPの70%超をサービス業が占めているというように、国内産業の中心は1980年代までの量産型製造業からサービス業に変わっています。量産型製造業が強かった時代は、品質の高い製品を全員が同じように作り出すマネジメントが重要でした。
その場合、個々人が生み出す価値はほぼ一定で、労働生産性は『定数』といえます。ですから、長時間働けば働くほど確実に生産量と業績を伸ばすことができたわけです。
しかし、ソフトウエアなど価値が目に見えにくい商品を売っていくサービス業では個々人の生み出す価値が異なります。プロスポーツと同じように5億円稼ぐ人もいれば1000万円しか稼げない人もいる。
つまり、個々人の労働生産性が『変数』化しているのです。その結果が業績に直結しますから、従業員一人一人の能力を引き上げ、パフォーマンスを高めるタレントマネジメントが重要になっているのです。
加えて、第4次産業革命が2010年代に始まり、AIやIoT、ビッグデータ解析、クラウドなどの最新テクノロジーがあらゆる産業に波及。人事領域においても業務効率化やタレントマネジメントを支援するHRテクノロジーが急速に普及しました。
これまでのように経験や勘に頼るのではなく、人事データを一括管理し、エビデンス(科学的根拠)に基づいた人材活用が可能になっています」