技術の発達で、録音した音楽もライヴ・パフォーマンスもあんまり変わらなくなるかもしれない。

 ライセンス契約で認められればの話だけれど。

 スポーツの例を見るとわかりやすい。

 プロのスポーツでは、チームは収入の大部分を有線・無線のテレビ局に試合をライヴで放送する権利を売って稼いでいる。

 生のスポーツ・イベントの入場料で得られる収入は、ライヴ・コンサートでの収入に当たる。

 でも、ミュージシャンが自分のライヴを録音したり放送してたりして、それで余計にお金を稼ぐことはあまりない。

 将来、ファンはライヴの録音やビデオを買い、アーティストもどんどん、コンサートをストリーミングで生放送して収入を増やすのが経済的に有意義なことになるんだろう。

 オーダーメイドってやり方は録音された音楽にも出てきている。

 医療の最前線で薬のオーダーメイド化が進んでいるのと同じだ。

 マルチプレイヤーであり、歌い手にしてミュージシャンのジェイコブ・コリアーは、ペイトリオンを通じて、聴き手にオーダーメイドの音楽を提供している。

 ファンは自分で書いた歌詞を録音して送り、コリアーがそれを曲にしてコードもつける。

 グラミー賞まで獲ったミュージシャンが手を入れれば、曲は当たり前にずっとよくなる。

 他にも「ハッピー・バースデイ」やなんかの曲をお客のために歌うサービスを、料金を取って提供している。

 ミュージシャンがライヴで稼ぐお金と録音した音楽で稼ぐお金の差を縮めようと思ったら、レコード会社は商売のやり方を変えないといけない。

 レコード会社のビジネスモデルでは、だいたいの場合、ライヴの録音を転売できなくしている。

 代わりにアーティストは、レコード・レーベルと距離を置くこともできる。

 レディオヘッドのトム・ヨークは若いミュージシャンたちにこんなアドバイスを語っている。

「まず何よりも、大金を貰う契約を結んで、デジタル著作権を手放したりしちゃいけない……売り出し中のアーティストなら、そのときはおっかなびっくりだろうね。でもやっぱり、新人を掘り出せない大きな会社を相手に交渉に出ることのダウンサイドなんてぜんぜん思いつかない。なんにしても彼らは、新人をどうしていいか、まったくわからないんだし」

 それでも音楽のスーパースターといえば、だいたいはレコード大手3社(ユニヴァーサル、ワーナー、ソニー)か大手のインディ・レーベルのどれかと契約する。

 一番目立つ例外はチャンセラー・ジョナサン・ベネットだ。

 チャンス・ザ・ラッパーという名のほうがよく知られているだろう。

 シカゴ生まれの25歳で、インディ系のアーティストでい続けている。

 自分が進む道を自分で決めているのだ。

 アルバム(彼自身はミックステープと呼ぶ)をタダでリリースし、ツアーやグッズの販売でお金を稼いでいる。

 彼が際立っているのは、自分の曲を物理的な形で一切売らずにグラミー賞を勝ち取った初めてのアーティストである点だ。

 この道をたどるアーティストがもっと出てくる可能性は高い。

 まあ、大部分のアーティストは安全な道を選び、大手のレーベルと契約するんだろうけど。

(本原稿は『ROCKONOMICS 経済はロックに学べ!』(アラン・B・クルーガー著、望月衛訳)からの抜粋です)