人々を熱狂させる未来を“先取り”し続けてきた「音楽」に目を向けることで、どんなヒントが得られるのだろうか? オバマ政権で経済ブレーンを務めた経済学者による『ROCKONOMICS 経済はロックに学べ!』がついに刊行となった。自身も熱烈なロックファンだという経済学の重鎮アラン・B・クルーガーが、音楽やアーティストの分析を通じて、ビジネスや人生を切り開くための道を探った一冊だ。同書の一部を抜粋して紹介する。
ミュージシャンたちを悩ます「食い違い」
ミュージシャンだって他のたくさんの稼業とおんなじで、いろんなものを売っている。
その中で一番大事なのがライヴ・パフォーマンスと録音した音楽だ。
経済学の符丁では、ミュージシャン稼業は多品種生産を行う業種だ。
アップルは、ここを書いている時点では、時価総額で世界最大の企業である。
同社も多品種生産を行う企業だ。
アップルは機器を売る。
iPhone、コンピュータ、iPadなんかがそうだ。
また、アップル・ミュージックを通じて音楽も売る。
そしてアップル・ブックスを通じて本も売っている。
でもミュージシャンがちょっと違うのは、一番の売りもの、つまり録音した音楽ではどちらかというとそんなに稼げていない点だ。
この食い違いはミュージシャンと他のエンタテイナーの違いでもある。
映画俳優は収入の大部分を映画で演技して稼いでいる。
そしてファンはその演技を楽しみ、俳優たちの芸を消費する。
プロのアスリートの中には、エンドースメント契約や映画の出演で稼いでいる人もいるけれど、アスリートは典型的に、自分のスポーツをプレイすることで貰うお給料で糊口をしのいでいる。
そんなプレイでファンはアスリートの仕事に接するのだ。
たぶん、ミュージシャンにとても近いのは本を書く人たちじゃないだろうか。
本を書く人たちにとって稼ぎの大部分は、本の手付金や売れた本の印税だ。
でもときどき、自分の人気や経験を利用して講演をして回って大きく稼ぐ人もいる。
1990年代の終わりから2000年代の初め、ミュージシャンの懐に入るレコードの売り上げはファイルの共有や海賊盤に食われた。
ファンが音楽を消費するときのあり方と、ミュージシャンがお金を稼ぐときのあり方の食い違いは、たぶんそのまま続けられないところまで広がった。
でも両者の差は今後縮まる可能性が高い。
というのは、ストリーミングやソーシャル・メディアでミュージシャンが直接ファンとやりとりして、ライヴ・パフォーマンスと録音された音楽の結びつきがもっと強くなるからだ。
テイラー・スウィフトはこの路線の先駆者だ。
ファンはこの歌い手の音楽ビデオを見たりメーリング・リストに入ったりアルバムやグッズを買ったりすれば、どれかのコンサート・チケットを買える可能性が高くなる。
そんなセット商法は、ミュージシャンが、録音した音楽を通じたファンとのつながりを使ってお金を稼ぐ術として、自然にでき上がったものである。