「その説明では(納得するのが)難しい。海外の状況を押さえたうえで『日本のシステムでは収益が上がらない』と言わないと、間違ってしまう」
4月12日、自民党厚生労働関係議員と製薬企業有志十数社でつくる「製薬産業政策に関する勉強会」(会長=衛藤晟一参院議員、通称・衛藤勉強会)で、日本製薬工業協会の中山讓治会長(当時)に対し、躊躇なく苦言を呈したのは、自民厚労族のドン、伊吹文明氏(元衆院議長)だった。
先進各国との比較で、薬価や研究開発をめぐる日本の窮状を端的に説明した中山会長に対し、海外との保険制度の違いなどを踏まえた対応が必要と諭した。そのうえで、伊吹氏はこう語っている。
「薬価で研究開発費を生み出す制度に無理があるなら、税制や補助金を国家戦略として入れないと進まない。もし一般会計で無理なら『保険特別会計』などの道を開いたほうが公平な議論になるのではないか」
伊吹氏は元大蔵官僚で、労相、財務相などの要職を次々経験。衆院議長を務めた後も、自民厚労族の中心的存在であり続けた。その伊吹氏がついに政界を引退する。6月末、次期衆院選に出馬しない意向を示したのだ。
現在の立場は、二階俊博幹事長率いる二階派の最高顧問。毎週行われる派閥の会合では、その都度、内政から外交まで幅広いテーマに渡って「ご講話」を披露している。また、首相ら政権幹部に対しても、歯に衣着せぬ物言いで「ご意見番」を担い続け、「イブキング」の異名を取る。衛藤勉強会でも「伊吹独演会」「ご説法」が繰り返されたが、それが成り立つ源泉は、伊吹氏の影響力の大きさだった。
元厚労省幹部は「いざというときに官邸に対して『ノー』と言える力があるのとないとでは事情がだいぶ違う」と評する。つまり、伊吹氏にはその力があったということだ。ただ、近年はそれにも陰りが見え始めた。