恐らくは、国民の過半が嫌がっている東京五輪・パラリンピックよりも、遥かにお茶の間に「希望と勇気を届ける」働きをしたものと思われる。米国食品医薬品局(FDA)が下したアルツハイマー型認知症(AD)薬「アデュカヌマブ」(製品名、アデュヘルム)の迅速承認というニュースだ。業界関係者が固唾を飲んで見守った6月7日深夜のイベント以降、いわゆるF1層(20~34歳の女性)を対象としたテレビ番組までもが「画期的新薬」「歴史的快挙」などと諸手を上げて快挙を称えた。
株価も一般投資家を中心とした「買い」の殺到によってまる2日間にわたって取引が成立しない「祭り」となったうえ、野村證券が8日付で目標株価を従来の1万5000円から1万8000円に引き上げるなど、市場関係者も加熱状態をさらに焚き付けた。収益への貢献時期はしばらく先になると語った内藤晴夫CEOの発言や、FDAの今回の判断を前にして「異例」だの、「政治的判断」だのいった辛気臭い識者の声は、かき消されてしまった。