支持率低迷が続く菅義偉内閣が、メンツと政権浮揚を賭けて進める希望者への新型コロナウイルスワクチンの大規模接種。当座の目標に掲げていた「1日100万回接種」は、6月下旬に一応は達成し得た。と同時に世間では、必然的に増える副反応の症例を前に、アセトアミノフェンを成分とするOTC薬「タイレノール」が、指名買いによって全国的に品薄になる流通上の副反応も現れた。
思い返せば2000年、解熱鎮痛剤の“黒船”として武田薬品が米ジョンソン・エンド・ジョンソンからライセンスを得て国内販売に踏み切って以来、苦節22年目にしてようやく衆目を集めることになった格好だ。「バファリン」や「ナロン」「イブ」を打ち負かそうとした当時の武田関係者の希求の一部が、ようやく実ったとも言えよう。ただし、惜しむらくはタイレノールの取扱いはこの4月に武田が、2420億円でブラックストーン・グループなどに売却した成れの果てのアリナミン製薬の手によるという部分である。
国内OTC業界に、うたかたのように存在した企業としてゼファーマがあった。山之内製薬と藤沢薬品のOTC薬部門を合流させたものだったが、わずか1年半で第一三共に併呑された。この流れ自体は、ほぼほぼ既定路線であったが、社名のネーミングにはそれなりの拘りが見られた。
翻ってアリナミン製薬である。最主力品がビタミンB1誘導体の「アリナミン」群とはいえ、掘立小屋のような会社名ではないか。ブラックストーンらが端から、旧武田コンシューマーヘルスケアの「出口」をどう実現するかしか重視していない。こんな社名では、たまたまタイレノールは免れたものの、アリナミン以外のブランドは押し並べて埋没してしまい、現場の士気も上がらないものと想像する。
そうした状況に、さらに冷や水を浴びせたのが、6月上旬に発表されたロート製薬による天藤製薬の子会社化だ。買収額は明らかにしていないが、天藤の発行済み株式の67%強を創業一族の大槻家などから推定90億円で8月末までに買い取る。ロートは天藤の痔疾用剤「ボラギノール」を傘下に収めてOTC薬部門を拡大する。