権力は、アルコール中毒と同じくらい共感力を鈍らせる

――世界に通用するリーダーを目指して人間力を高めるための心得はありますか?

山口 感情をきちんとコントロールすること、つまり感情的知性〈EI〉を持つことが社会的な成功に寄与するというデータは現に出ています。ですから、感情をコントロールして、常に人間として尊厳ある振る舞いを他者に対してできるかどうかが極めて重要です。

キャシー 特にいまの時代、リーダーシップには「共感力」というスキルが重要ですね。様々なスタディはありますが、男性より女性の方が共感力に優れている場合も多いと思うので、ぜひ女性には積極的にリーダーになってほしいですね。

山口 権力を持つことがアルコール中毒になるのと同じくらい、共感力を鈍麻させる作用があるという研究も出ていて、特に男性の方がその傾向が強いそうです。

 先行きが見通しにくいVUCAの世の中では特に、強引な振る舞いをしてしまうような、共感力を欠いたパワーは極めて危険ですね。

リーダーがパワーを行使すべき「タイミング」とは?

山口 優れたリーダーになるためには、パワーを使うべき「タイミング」を考えることも重要です。

 いまだによく覚えているエピソードがあります。僕が以前所属していたコンサル会社の会議で、パフォーマンスもポテンシャルも大変優れている女性をマネジャーに昇進させるかどうかについて議論していたときのことでした。その女性は育休明けで時短勤務だったのですが、ある男性がその会議の場で「いざとなったら徹夜ができるのも含めてコンサルのマネジャーなんだから、時短勤務をしているようでは甘いのではないか」と発言しました。

 すると、いつも朗らかなオランダ人のパートナーが急に立ち上がって、非常にシリアスな顔で「いま議論を聞いていて、大変なショックを受けました。この会話をマネージングディレクターのボードが聞いたら、皆さん全員クビになりますよ」と言ったんです。

 彼は普段は全然厳しいことを言わず、いつもニュートラルで、バランスのとれた判断をする人だったのですが、「多様性を損なう発言は絶対に許さない」と考えて自らのパワーを行使したわけです。それ以降、その職場でのダイバーシティに関する姿勢は、大いに改善されました。

学習に不可欠な「リバースメンター」という手法

――日本企業の上位役職者が自分を見つめ直すには、どうしたらよいでしょうか?

キャシー 若い人が上の人に対してメンターになる「リバースメンター」という手法は非常に有効です。デジタルマーケティングやフィンテックのような新しい分野に関しては、若者の方が詳しいですし、勉強になることばかりで楽しいです。

山口 リバースメンターは、アメリカでは相当な企業が活用していますので、日本でも導入してみるといいと思いますね。私がこれを実践したとき、「山口さんとは2度とプロジェクトを一緒にやりたくありません」という厳しいフィードバックが来て大変ショックを受けました。ですが、筋力トレーニングと同様に、学習のプロセスには1度負荷をかける段階が絶対に必要だと思います。

キャシー 日本には才能豊かなリーダーがたくさんいますから、こういった学びを通じて、さらにその才能を磨いていってほしいですね。

(本稿は、ダイヤモンド社「The Salon」が開催した、ハーバード・ビジネス・レビューEIシリーズ『リーダーの持つ力』の刊行記念イベントのダイジェスト記事です)