女性を活用しない組織は「片足でマラソン」している状態

山口 実は私、日本企業で過ごした経験がほとんどなく、20代で日本の広告代理店に入った後はアメリカの会社にずっといたので、ごく当たり前に女性の上司や同僚、部下がいて、性差による能力の違いを考えたことすらありませんでした。一方日本の会社では、管理職の研修に参加している20人のうち女性が1人だけ、というようなケースが実際にいくらでもあるわけです。

 もちろん、軍隊のように特別にフィジカルな要素が求められる組織で、男女比に偏りが出るのは理解できますが、少なくともコンピテンシーやモチベーションには、科学的にも生物学的にもほとんど性差はありません。

 ですので、男性ばかりの組織というのは「片足だけでマラソンする状態」だ、というキャシーさんの例えは言い得て妙ですね。世の中には豊かな資源がもう1つあるわけですから、それを活用しないのは、どう考えても機会費用が大きすぎます。

女性の「セルフハンディキャッピング」を防ぐには?

山口 日本の場合、女性自身がマネジメント職に対してためらってしまうことがあります。人材育成の世界では「セルフハンディキャッピング」と言いますが、非常にもったいないなと感じています。

キャシー アメリカやヨーロッパでも似たような傾向が見られることもあるので、女性の自信の欠如は、日本国内だけでなくユニバーサルな問題ですね。

山口 最初は謙遜なのかとも思うのですが、本当に嫌がっている場合がありますよね。

キャシー そういうケースでは、「彼女自身の決定を尊重しないといけない」という判断でマネジャーが引き下がってしまうことが多々あります。

 しかし、カルビーの元会長・松本晃さんは、1回目がダメなら「2回目の説得を試みてプッシュするべきだ」とおっしゃっていて、その力強いリーダーシップに非常に感銘を受けたことをいまだに覚えています。その2度目の説得のときに松本さんは、「このポストはあなたに非常に向いていると私は思うし、何か問題が起きたら必ずバックアップしますから、ぜひ挑戦してみませんか」とエンカレッジする言葉を伝えるそうです。

優秀な人材の「オンボーディング」を成功させる秘訣とは?

山口 外資系の企業では、人材を抜擢したり、他社からの引き抜きで採用して重職に就かせたりすることを「オンボーディング」と言います。

 オンボーディングとは、船に乗せてクルーとして活躍できるようにするという意味ですが、松本さんは「あなたが成功するために、私がパワーを使いますから」と、コミットメントを確約しているわけですね。これは、オンボーディングでは極めて重要なポイントです。

 日本の企業は抜擢したり、他社から採用したりしても、その後は「優秀なんだから頑張ってください」と置き去りにする傾向にある。その結果、最終的に失敗することが多い。

 抜擢する、あるいは説得して重職に就かせるならば、その人が成功するまで周囲が全力でサポートしないといけないんです。例えば、抜擢の推薦をしたエグゼクティブが月に1回メンタリングの時間を取って、悩みを聞いたり、その同僚から話を聞いたりして支援するだけで、非常に効果があります。