職場における多様性や心理的安全性が重要視されるようになったいま、強大な権力でメンバーをけん引するトップダウン型ではなく、コミュニケーションが取りやすく風通しのいいフラット型の組織作りに取り組む企業が増えている。
しかし、どんなにフラットな組織であっても、課題解決や大きな意思決定の場では「決断する」というマネジメントの力が必要不可欠なことに変わりはない。では、マネジメントとしての力を行使しながらも、時代の流れに適応した新しいリーダーシップとは、どんなものになっていくのだろうか。
そこで今回は、ハーバード・ビジネス・レビューEIシリーズの最新刊『リーダーの持つ力』の日本版オリジナル解説を著した独立研究者・山口周氏と、ゴールドマン・サックス証券の元副会長・キャシー松井氏が、組織のマネジメントや女性の活躍促進について語った、ダイヤモンド社「The Salon」のイベントを全2回のダイジェスト版でお届けする。(構成/根本隼)

ダメなリーダーほど気づかない「共感力」を鈍らせる意外なものとは?Photo:Adobe Stock

多様性の価値が浸透しない日本

ダメなリーダーほど気づかない「共感力」を鈍らせる意外なものとは?山口周(やまぐち・しゅう)
1970年東京都生まれ。独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。電通、BCGなどで戦略策定、文化政策、組織開発等に従事。著書に『ビジネスの未来』『ニュータイプの時代』『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』『武器になる哲学』など。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修士課程修了。 株式会社中川政七商店社外取締役、株式会社モバイルファクトリー社外取締役。

山口周(以下、山口) 「多様性」は、いま世界全体が共有している重要なテーマで、ここ4~5年の間に急激に関心が高まっていますが、そんな中で日本の動きが出遅れていることに私は不満を覚えています。

 数年前のダボス会議の壇上に出てきたパネリストが全員男性だったことに対して、会場からブーイングが出て、聴衆の全員が抗議のために退出したという騒動がありました。それを受け、主催者側がパネリストのダイバーシティにきちんと配慮するようになり、その後そういった動きが加速しました。

 一方で、日本のカンファレンスに目を向けると、十数人の参加者が全員男性、というケースはいまだにあると思います。こういった現状に関して、キャシーさんはどのようにお考えですか?

キャシー松井(以下、キャシー) このテーマについては、20年以上前からリサーチで取り上げてきました。そんな中で実感しているのが、「多様性を重視すべき」という価値観を信じる人たちが数多くいる一方で、「多様性の実現なんてコストも時間もかかるし、無意味だ」と、その重要性に疑問を呈す人もかなりいるということです。

山口 日本だけでなくアメリカでもですか?

キャシー アメリカでもそうです。性別だけでなく、人種についても同様です。ですから、「多様性の価値は何か」という点からしっかり考え抜いて主張しないと、社会は動かせません。

表面的なクオータ制は禁物

ダメなリーダーほど気づかない「共感力」を鈍らせる意外なものとは?キャシー松井(きゃしー・まつい)
ゴールドマン・サックス証券株式会社 元副会長、グローバル・マクロ調査部アジア部門統括、チーフ日本株ストラテジスト。過去数回、インスティチューショナル インベスターズ アナリストランキングにて日本株式投資戦略部門で1位を獲得。ウーマノミクスのテーマにて、2007年にウォールストリートジャーナルの「10 Women to Watch in Asia」の一人に選ばれた。 2014年にはBloomberg Marketsの「50 Most Influential 」の一人に選ばれた。 過去には、政府関係の女性の潜在力促進・向上改革に向けた会合、ワーキンググループなどに参加した。現在、アジア女子大学支援基金財団の理事会メンバー、米日カウンシル議会理事会長、一般財団法人ファーストリテイリンング財団の理事、外交問題評議会メンバー、アジア自然保護協会メンバー、経済同友会メンバー、日本癌学会の乳癌基金のアドバイザリーメンバーの一員でもある。 ハーバード大学、ジョンズ・ホプキンズ大学院卒業(SAIS)。

山口 日本では、多様性の本質を考えずに「とりあえず組織に女性を入れておけばいい」という乱暴な考え方をする人がよくいます。

 多様性がもたらす豊かさや、組織に多様性があると自分にも成長の機会が与えられるという、本質的な重要性を理解せずに単なる手続き論だけが先行すると、非常に表面的なクオータ制の導入だけで終わってしまう可能性があります。

 ですので、多様性の価値について考える機会をもっと作らなければならない、と私も感じています。私の子ども2人は女性ですから、他人事じゃない問題です。

キャシー 私は、クオータ制に原則的には否定的ですが、公的部門については完全に反対という訳ではありません。

 例えば、衆議院議員の女性比率を見ると、サウジアラビアやリビアより低い10%前後です。有権者が選んだ結果だといえばそれまでですが、日本の実際の人口比率が男性9割、女性1割ではないことも事実です。

 ですから、日本の経済政策や国防策を考えているメンバーのうち男性が9割、というアンバランスをクオータ制で修正する必要はあるかもしれないと考えています。そうしないと、100年経っても変わらないかもしれませんから。