トマトの施設栽培に取り組むに当たっては、ハイテク農業先進国であるオランダに職員を派遣したり、国内で実績のある千葉県の大手農業生産法人から技術を導入したりした。自社での技術開発にも注力してきた。35棟あるハウス(種苗ハウス、下吉川事業所含む)の一部は、新たな栽培技術の研究のため、センシングや自動化などのデータを収集する最先端の機器を集めた“アグリテック実験棟”となっている。
「イノベーション等による持続的生産体制の構築」もまた、農水省の「みどりの食料システム戦略」の柱の一つだが、この面にも富山環境整備は早くから取り組んできたことになる。
地域あってこその農業、農業あってこその地域
同社が農業事業に積極的である理由を探っていくと、もう一つ、同社にとっての大きなテーマが見えてくる。高田氏の言葉を借りるなら、「地域の活性化と雇用の促進」だ。主力事業所がある富山市の婦中町吉谷地区を中心としたエリアは、人口減少と高齢化が進む中山間地。新規事業として施設農業を選んだのも、それが地域に根差して、そこに雇用を生み出す産業だったからだという。
今ではトマトに次ぐ主力産品となったトルコギキョウの栽培に着手したのも、近隣の花き農家が生産をやめるタイミングだった。その生産者に指導を仰いだのだ。また、施設農業による通年栽培を広げることは、農繁期と農閑期の作業量の極端な差が平準化され、雇用の安定的な確保の鍵ともなる。
同社は最近、周辺地域での稲作にまで手を広げている。水田でのコメ作りには、自給エネルギーやハイテクといった自社の強みは生かしにくいが、「当社が引き受ければ、後継者のいない田んぼでも休耕田にならず、地域の活性化につながる」(高田氏)との発想から、乗り出した。
農水省は「みどりの食料システム戦略」で「食料システムを支える持続可能な農山漁村の創造」を目指す考えを強調し、その期待される効果として、地域の雇用・所得拡大を挙げている。エネルギーの調達やイノベーションの導入で未来を先取りしてきた富山環境整備は、実は持続可能な農村の創造という面でも、一歩も二歩も先を進んでいたことになる。
2050年までを見据えて農水省が「みどりの食料システム戦略」で描いた日本の農林水産業と食料の未来は、ビジネスの現場ではすでに現実になり始めている。