農林水産省が5月に打ち出した「みどりの食料システム戦略」。そこで推進していく分野として掲げられたのは、①資材やエネルギーの調達での脱輸入・脱炭素化・環境負荷軽減の推進、②イノベーションなどによる持続的生産体制の構築、③ムリ・ムダのない持続可能な加工・流通システムの確立、④環境にやさしい持続可能な消費の拡大や食育の推進……という四大テーマだ。その実現に早くからビジネスとして取り組み、すでに実績を上げている3社、アグリーンハート(青森県)、オイシックス・ラ・大地(東京都)、富山環境整備(富山県)の現場から、「農と食の未来」をリポートする。
事例1 アグリーンハート[青森県黒石市]
低コスト大量生産と高付加価値有機栽培を両立
生産と消費、双方の持続可能性を引き上げる
②イノベーションなどによる持続的生産体制の構築
④環境にやさしい持続可能な消費の拡大や食育の推進
──食料生産を担う生産者の減少・高齢化の一層の進行など、生産基盤の脆弱化や、地域コミュニティの衰退が顕在化している中、農林水産業の生産力強化は我が国として克服すべき課題である。生産力向上と持続性の両立を実現する鍵となるのが、食料システムを構成する関係者の行動変容と、それを強力に後押しするイノベーションの創出である──
これは、今年5月に打ち出した「みどりの食料システム戦略」の冒頭で、農林水産省が示している課題だ。この「我が国として克服すべき課題」の解決で早くも成果を上げ始めている農業生産法人がある。青森県黒石市を基盤とするアグリーンハートだ。2017年に4人でスタートして、4年後の現在は14人体制となっている若い成長企業でもある。
同社の本社と農場のある黒石市は、米どころ青森県の中心産地。そこに広がる水田地帯で展開する稲作で同社は、自ら「低コスト大量生産型」と呼ぶモデルによる大規模志向の「企業農業」で、平地で最大8割の減農薬栽培を実施するほか、中山間地においては高度な有機農法による稲作を展開している。これらのモデルで水稲栽培を行っている圃場の総面積は60ヘクタールを超えているが、アグリーンハートで農業生産を担当する従業員は9人だ。
平地での稲作はスマート化で人や環境への負担を抑制
これほどの少人数で回していけるのは、多種多様なテクノロジーを活用したスマート農業だからこそ。鍵となっている技術は、次のようなものだ。
▼種もみを直接、田にまく直播
▼AI活用による雑草検知やドローンによる薬剤散布
▼リモートでの水位・水温検知や入排水
▼従業員のパフォーマンスの可視化や農作業の記録
いずれも省力化と省エネルギー化に直結する取り組みで、農業系の生産技術とIT系の管理技術に大別できる。そのうち、まず生産技術について佐藤拓郎代表取締役は次のように語る。