「こんまり」こと近藤麻理恵は世界で最も有名な日本人の一人。彼女の世界進出を手がけたプロデューサー兼夫である私の書籍『Be Yourself』では、こんまりが世界で活躍するようになった舞台裏を明かしています。今回対談する尾原和啓さんは新刊『プロセスエコノミー』を出したばかり。これから必要になるビジネスやコンテンツの生み出し方について二人で語り合いました(構成/宮本恵理子)。
尾原和啓さん(以下、尾原) 卓巳さん、こんにちは。今日は、初の著書『Be Yourself』を上梓して以来、たくさんの才能を輝かせることにますます夢中な川原卓巳さんと、「EX」をテーマに放談していきます。
DX(デジタル・トランスフォーメーション)の次は「EX」! EXとは、「エンターテインメント・トランスフォーメーション」のこと。卓巳さんが「これからはEXの時代だ」とおっしゃっているのを聞いて深く共感し、ぜひこのテーマで話しませんかとお誘いしました。
川原卓巳さん(以下、川原) 光栄です。『プロセスエコノミー』著者の尾原っち(尾原さんの愛称)に響いたことがうれしいです。
尾原 改めて、卓巳さんの実績をご紹介すると、「こんまり」さんこと、片づけコンサルタントの近藤麻理恵さんの公私のパートナーであり、こんまりさんの世界進出に伴走するプロデューサーです。
僕、コロナ前には年間85フライトくらいのペースで世界中を飛び回っていたんですけれど、かなりの確率で、各地の空港にこんまりさんの本が置かれているんです。
本は世界48ヵ国で翻訳されて1200万部のベストセラーになっているそうで、日本発の「片づけ」という価値が、世界に評価されるという素晴らしいモデルをつくった立役者が卓巳さんです。Netflixのオリジナルドラマシリーズも大好評で、間もなくシーズン2も公開されるんでしたっけ?
川原 はい、今、映像を撮り終わって編集しているところです(編集注:2021年8月31日からNetflixでシリーズ第2弾の放映がスタートする)
尾原 著名な米経営学者のフィリップ・コトラーさんが出版した『マーケティング5.0』(※日本語版は未発売)にも、こんまりさんの事例が紹介されていました。
つまり卓巳さんは世界でも最先端のプロデュースを実践されているということ。そんな卓巳さんが「EX」というキーワードに注目するに至った理由を教えていただけますか。
川原 きっかけは、(日本戦略情報支援機構CEOの)田村耕太郎さんとの対話です。国内で地方創生に取り組む人たちのプレゼンを聞いて深掘りする場で、田村さんが、「世界に届けるには、エンタテイメント化しないといけない」とおっしゃっていて。
腑に落ちると同時に、自分自身が普段、意識している「正しいことを楽しく伝える」とはそういうことだと、改めて認識したんです。そのやりとりの中で生まれたのが「EX」という言葉でした。
尾原 なるほど。エンタメ化といっても、単に「日本独自の文化を世界に発信しよう」という「クールジャパン」的な発想ではなく、“正しい”から“楽しい”への転換が重要だと。なぜその着想に至ったのでしょう。
川原 “楽しい”が最強であることを悟ったのは、麻理恵さん独自の片づけ法「こんまりメソッド」が世界に広がっていく過程を振り返った結果です。
さかのぼってお話しすると、麻理恵さんが片づけに興味を持ったのは5歳の時。専業主婦だったお母さんの影響で家事に興味を持ち、お母さんが定期購読していた主婦雑誌を先に開封するような子どもだったそうです(笑)。
料理や裁縫はできるようになった彼女が、唯一、うまくいかないと悩んだのが片づけだったんですね。どうしたらリバウンドせずに「片づけを終わらせる」ことができるのか? 地道に研究を続け、15歳の時に確立したのが「ときめき」を基準に持ち物の取捨選択をするというメソッドでした。
自分の部屋の片づけを終えると、きょうだいや友達の部屋も片づけるようになっていって、大学生になると、一人暮らしの友達の家も片づけるようになって、彼女の腕はますます磨かれていきました。
そのうち、直接知らない人からも「お金を払うからやってほしい」とオファーが来るようになって、19歳から「片づけコンサルタント」と名乗り始めるんです。
尾原 まさに「片づけを終わらせたい」という内発的動機から展開されていったわけですね。
川原 大学卒業後、企業に就職してからもオファーは絶えず、2年後には独立。すると、あっという間に半年先まで片づけレッスンの予約が埋まるようになったそうです。
そこで、すぐにレッスンを提供できないお客さんに向けて書いたのが2010年に出版した『人生がときめく片づけの魔法』でした。これが翌年にはミリオンセラーになって、麻理恵さんはテレビ出演を通じて、お茶の間に知られる存在になりました。
学生時代に麻理恵さんと知り合っていた僕が再会したのはこの頃です。でも、当時の彼女は悩んでいたんです。悩みは、「自分一人では『日本の片づけを終わらせたい』という目標を達成できない」と。ちなみにこの目標は、やがて「世界の片づけを終わらせたい」に変わるのですが。
尾原 スケールが違いますね(笑)。
川原 初めて聞いた時には、「この人、本気でやべーな」と驚きつつ、思いには深く共感できたんです。
当時の僕は、人材教育系の会社で経営者やマネジャー対象のコンサルタントとして働いていたんですが、副業として麻理恵さんを手伝っていたんです。
まず、麻理恵さんと同じように片づけを仕事にできる人を育成しようと、資格モデルを構築しました。それがあっという間に忙しくなって、僕は会社を辞めてこっちを本業になりました。2013年のことです。
翌年、アメリカのエージェントから翻訳出版のオファーをいただき、英語版がリリースされたのですが、「ニューヨークタイムズ」の記者に取り上げられて、ベストセラーリストの1位に入るようになりました。以後、70週連続1位をキープしたんです。
この頃から、1年の半分は海外での取材や講演に対応する日々となっていました。そこで一念発起して、2016年にアメリカに移住したんです。
ご縁があって実現したNetflixのオリジナルドラマシリーズは、2019年に世界で一番観られたドキュメンタリー番組になりました。僕は、このシリーズのエグゼクティブプロデューサーとして参加させてもらっています。
一貫して僕たちのゴールは、片づけを通して世界中の人たちの人生を輝かせること。こんまりメソッドを習得した資格保持者は70ヵ国700人ほどまで増えました。一気にしゃべってすみません(笑)
尾原 ありがとうございます。このプロセスの中に、「正しいことを楽しく伝える重要性」の発見があったんですね。
(2021年7月29日公開記事に続く)