その3:動画のインパクト

 一度ネット上に動画がアップされれば、誰もが瞬時にそれを拡散できる時代である。そしてこのニュースの場合、「メダルをかじった」と文字で読むよりも、動画のインパクトがすさまじい。

 拡散されている動画は、後藤選手が後方、市長が手前にいて横顔が大きく写っているものだ。運が悪いことに、市長の口元の様子がよくわかり、かぶりつく様子がもっとも効果的にわかるカメラワークだった。

 SNSやニュース記事など、まず文字で事実を知ってその後で動画を確認し、「想像以上の惨劇だった」という感想を持った人も多いのではないか。

その4:「持ち物」を汚す行為

 これが選手へのハグだったらどうだろう。その場合もやはり「コロナ禍なのに」と言われただろうし、「セクハラ」という非難は一層強かっただろうが、一方で見た人が感じる生理的嫌悪はメダルかじりも同等…いやそれ以上かもしれない。

「人の唾液が自分の持ち物につく(かもしれない)」ことの嫌悪感は、性別にかかわらず共有できるものだからではないだろうか。正直、気の毒で「唾液がついたのではないか」と書くことすらはばかられる。ネット上では「交換してあげては」といった声も多く見られる。

 また、パーソナルスペース(それ以上は他人に近づかれたくないと感じる距離)は人それぞれ差があり感覚を共有するのはなかなか難しいが、「自分の所有物を必要以上に触られる」「勝手に扱われる」ことの気持ち悪さは、案外共有しやすいのではないか。

その5:72歳男性と20歳女性

 市長は72歳、後藤選手は20歳だ。メダルをかじられた後藤選手は笑っているが、もし「嫌だな」と思ったとして、その感情をあの場で示すことができる人は多くないだろう。

 辞任した森喜朗・大会組織委会長(当時)の女性差別発言や、演出振付家のMIKIKO氏を開会式演出の実質的責任者の立場から追いやったと報道された佐々木宏氏の「オリンピッグ」騒動。

 責任のある立場にいる男性による女性蔑視がたびたび話題となり、あるいは年長者による「パワハラ」が問題化することが増えた昨今。メダルかじりは悪気なく行われたこととはいえ、いやむしろそれだけに、特権性への無自覚を感じさせた。

 オリンピックもそろそろ閉幕というときに大きな話題となってしまったこの事件。願わくば、内密にでもいいのでメダルを交換するか、厳重に消毒殺菌をしてあげてほしい。