メディア論で知られるマーシャル・マクルーハンは1960年代、「グローバル・ビレッジ(地球村)」という概念を提唱し、世界中にセンセーションを巻き起こしました。情報化によって人々の中枢神経はつながり、世界はやがて1つの村のようになるという彼の予言は当初、ユートピア幻想のように語られていましたが、インターネットの普及と経済のグローバル化によって、それは現実のものとなりました。

 村で暮らしたことのある方ならば、人々の温かさと同時に窮屈さも実感したことがあるかも知れません。ましてや、村人の多くが未知の外国人だったとしたらどうでしょう?

 言葉やしきたりの違いから、悩ましい問題にも直面します。マクルーハンは実際、グローバル・ビレッジの本質は分裂であって、融合ではない、とも指摘しています。物理的・経済的に距離が近づくほど、人々の心理的・文化的な摩擦は大きくなっていくという訳です。

 たとえば、こんな場面を想像してみましょう。

 取引先の社長がインド人だったならば、やはりカレーで接待するべきか、それとも日本食に誘うべきか。些細なことだと思うでしょうが、当事者にとっては切実です。豚肉を食べないイスラム教徒に豚骨ラーメンを勧めたばかりに、せっかくのビジネスチャンスをふいにしたくはないものです。

 逃したくないビジネスチャンスは、バングラデシュにもあります。

 国土は日本の約4割、人口は日本よりやや多い約1億4000万人が暮らす小さな国。都市国家を除けば、人口密度は世界一とも言われているこの国にはいったい、どんなビジネスチャンスとご近所づきあいの秘訣が隠れているのでしょうか?

 日本で暮らす、日本語ペラペラのバングラデシュ人に聞きました。

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バングラ人はとにかく日本好き!
「いいモノ」の代名詞はトヨタ車、日立の冷蔵庫

「ネクストイレブン」と呼ばれる新興国の中でも、比較的安定した成長を続けているバングラデシュ。コメやジュートの栽培を中心とする農業国だが繊維業を中心に工業化が進み、近年は金融業も活発化している。マイクロファイナンスの先駆者として知られるグラミン銀行、世界最大のNGOと言われるBRAC(バングラデシュ農業向上委員会)も、この地で生まれた。過去5年間の経済成長率は平均して6.2%である。

 そんな国で生まれたホセイン エムディ カマルさん(31歳)が留学生として来日したのは2006年。日本語学校やアパレル関係の専門学校で学び、日本でEコマースを手がける会社に勤務した後、2011年7月に株式会社「クリエイティブ」を設立。現在は、その代表取締役兼エグゼクティブパートナーとして日本企業のバングラデシュ進出などを支援している。

 オフィスは東京都葛飾区にあり、私生活ではバングラデシュ人の妻と1歳の子どもの3人暮らし。