ポストコロナの新世界#5 包括経済Photo:Bulgac, _human, egal/gettyimages

コロナ禍で弱い立場の人、貧しい立場の人がさらに追い込まれている。中間層からの脱落も予想される。こうした状況下、社会のあらゆる人が、経済に参加できるよう平等な機会が与えられる「包摂経済」のあり方が見直されている。特集『ポストコロナの新世界』#5は、格差問題や年金制度に詳しい駒村康平・慶應義塾大学教授に包摂のあり方、中間層の復活に向けた施策について聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)

デジタル経済下で格差拡大に拍車
「トリクルダウンモデル」はもう無理

――コロナ禍もあり、すべての人を構成員として取り込み支え合う「包摂」という考え方の重要性が高まってきています。

「トリクルダウンはもう無理」慶應大教授が提言する中間層復活への処方箋こまむら・こうへい/1964年生まれ。95年慶應義塾大学大学院博士課程単位取得退学。社会保障研究所、国立社会保障・人口問題研究所研究員、東洋大学などを経て2007年より現職。主な著書に『日本の年金』(岩波新書)、『中間層消滅』(角川新書)など。

 包摂のための政策はポストコロナの新しい社会政策の構想として考えるべきです。一番大きな問題はやはり格差です。コロナ禍で格差は拡大すると思いますし、デジタル経済はさらに格差を拡大する性質を持っています。

 デジタル経済は、巨大IT企業による独占度が高い産業構造です。勝ち組、負け組が明確に分かれ、格差が拡大します。それゆえ、米国ではGAFAに対し、独占禁止法や(GAFAの分割などを視野に入れた)競争促進的な政策を採ろうとする動きがあります。司法省が反トラスト法に違反するとしてグーグルを提訴する動きもその一環です。

――格差是正のためにもさらなる経済成長を目指すべきだという意見がありますが。

 成長において、「地球の限界」を考慮せねばなりません。すでに人類は地球環境の持続可能性を損なっているとされています。その一つの現象が、乱開発による人獣接触による今回のパンデミック。いずれパンデミックが起きるということは皆分かっているのになぜか放置される事象、いわゆる“ブラックエレファント”が現実になったのが今日です。

 パンデミックが一例ですが、地球温暖化やSDGs(持続可能な開発目標)と経済成長は両立しなくなってきています。成長の限界が見えてきています。これまでは格差が拡大する過程でも、上の層を成長させることで下の層も滴り落ちる利益を得るという「トリクルダウンモデル」が唱えられてきましたが、もう無理ではないでしょうか。まず成長をしてからその果実を分配するという発想は地球の持続可能性と整合的ではないです。