「医師にずっとそばにいてほしかった。見捨てないでほしいとただひたすら祈った」――。日本を代表する心臓血管外科医である高本眞一氏は、13年前に妻を乳がんで亡くし、医師であると同時に患者の家族になった。当時の痛切な思いがあるからこそ、「患者さんとともに生きる」を信念に今も医師と患者の信頼関係の改善に努めている。そんな高本氏の目に、コロナ禍に見舞われる今の日本の医療現場はどう映るのか。(えむでぶ倶楽部ニュース編集部 赤羽法悦)
『患者さんに伝えたい医師の本心』を
執筆した心臓血管外科の重鎮
東京スカイツリーがそびえる東京都墨田区。JR錦糸町駅からほど近い、社会福祉法人賛育会が運営する賛育会病院(199床)の院長に今年4月1日、心臓血管外科の重鎮である医師が就任した。高本眞一氏だ。
2015年7月に、『患者さんに伝えたい医師の本心』(新潮新書)を出版するなど、医師と患者の新たな関係を模索しようとしてきた。高本氏は医師と患者は対等な関係で「患者さんとともに生きる」を信念に、患者に対して「頑張ってください」ではなく、「一緒に頑張りましょう」と言うようにしている。
高本氏は、心臓血管外科手術中の脳虚血を防ぐ術式である「高本式逆行性脳循環法」を開発し、弓部大動脈瘤手術の成功率を飛躍的に高めた実績などがある。一方、国が15年10月にスタートさせた医療事故調査制度(医療事故調)の大本になった、厚生労働省の補助金事業「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」(以下、モデル事業)の運営委員会委員などを務め、医療事故調発足に向けて積極的に発言を続けてきた。