今や先進国でも賃金の低い国になってしまった日本。ポップミュージシャンからジャズマンに大胆転身し、米国で活躍する大江千里氏は、「日本は賃金や物価が安くなるにつれ、保守的で閉鎖的な社会になっているんじゃないかな」と指摘する。『週刊ダイヤモンド』8月28日号の第1特集『安すぎ日本 沈む給料、買われる企業』に掲載した大江千里氏のインタビューの、ロングバージョンをお届けする。(聞き手、構成/ダイヤモンド編集部副編集長 杉本りうこ)
日本の驚異的な「安さ」は
働く人の我慢と犠牲が支えている
日本と米国を行ったり来たりしていると、日本の物価の安さは「お手頃でうれしい」を通り過ぎて心配になるほどです。コンビニエンスストアでどっさり買い物をしても1000円にならないし、家賃も安い。
日本には500円で買える「ワンコインランチ」という言葉がありますが、ニューヨークだと5ドルじゃサンドイッチ一つだって買えません。大人気のラーメンだったら1杯20ドル(約2200円)以上。替え玉やトッピングをして、ビールも飲むと50ドル(約5500円)です。
だいたい、ワンコインランチって常軌を逸していると思います。500円のお弁当の背後には、おかずをせっせと詰めている人がいるわけです。その人たちはちゃんとした時給をもらえているんだろうか。心配になります。日本の物価の安さの裏側にあるのは、やっぱり賃金の問題じゃないでしょうか。
日本で働く人は、企業に利用されちゃっている面がありませんか。本当ならもっとお給料をもらうべき仕事でも、文句を言わず我慢して、手も抜かずに働くでしょう?そこにある種の美しさはあるのですが、結果として経営者に安く使われている労働者が多いのでは。安い日本というのは、こういう我慢している人たちの犠牲の上に成り立っているのだと思います。
これが米国だったら、給料が仕事に見合わないとなると、働く人はすぐ手を抜きます。口に出して「自分は犠牲になっている」って言います。そしてそんな仕事なんかさっさと辞めて、もっといいチャンスを見つけに行きます。