「オリジナルグッズを作りたい」「欲しい物がなければ自分で作る」という、「パーソナルファブリケーション」の動きが、いま活発になっている。

 その背景には、モバイル端末で利用できるクリエイティブソフトや、個人でも購入可能な3Dプリンターの登場といったテクノロジーの進化がある。これまでは、プロか一部のマニアしか携わることができなかった本格的なモノづくり。このフィールドに一般消費者が手軽に踏み込める時代が到来した。

FabLab Japan」は、こういったモノづくりに興味を持つ人をつなぐネットワークだ。現在、渋谷、鎌倉、筑波の3ヵ所に工房を開設し、3Dプリンターやレーザーカッターを駆使した様々なワークショップを開催している。

 3Dプリンターは、3次元のCADデータをもとに、樹脂を積層してそのまま物理的な造形を作ってしまう機械。レーザーカッターは、文字通り、レーザー光を直径数マイクロメートル以下の微小スポットに集光することで材料を鋭利にカットすることができる。

 これらの機器を活用すれば、PC上でデジタルデザインしたものを、個人レベルでオブジェとして成形することが可能だ。まさに「世界でひとつだけのモノ」を所有することができる時代になってきたわけである。

オートデスクオートデスクが始めたパーソナルファブリケーションの情報発信Facebookページ「オートデスク モバイル」

 こうしたムーブメントを踏まえ、一般向けのクリエイティブソフトも続々とリリースされている。その筆頭が、米オートデスクの「123D(ワンツースリーディー)シリーズ」だ。

 同社は、3Dデザイン ソフトウェアを提供する世界的な企業。1982年にAutoCADを発売し、設計・デザイン分野のソフトウェアを牽引してきた老舗。アカデミー賞の視覚効果賞の受賞対象者に17年連続で同社の顧客が選ばれるなど、エンターテインメント分野での活躍も目覚ましい。

 ここ数年、同社は一般向けにも画期的なクリエイティブアプリを提供してきた。3Dモデルからボール紙の模型を作製する「123D Make」、複数の静止画像から3Dモデルを作成する「123D Catch」、3Dモデルを紙粘土のように手でこねて変形させる「123D Sculpt」。いずれもPCはもちろん、iPhone、iPad上での操作が可能だ。しかも、すべて無料である。

 3Dと聞くと、これまでは専門知識を必要とするハードルの高いソフトであった。しかし、このシリーズ、使い方は想像以上に簡単である。例えば、123D Catchの場合、20~40枚の画像から自動的に被写体の3Dデータを生成できる。これを3Dプリンターに送り、成形にかけるだけである。実際にFabLabでは、123D Catchを使い、自分の顔をペットボトルキャップにしてしまうユニークなワークショップも開催している。

 オートデスクのアプリに関する情報は、日本語のFacebookページ「オートデスク モバイル」で随時提供中だ。各ソフトに関する情報、基本操作の紹介に加え、作成事例、ワークショップの情報、モノづくり全般の情報を発信している。また、フォーラムを開設するなど、ユーザー支援も積極的に展開している。

 新しいモノづくりの潮流を描いた『MAKERS――21世紀の産業革命が始まる』の著者クリス・アンダーソンは、このほど、スタートアップのCEOに就任すると発表した。その企業は、簡単に組み立てられるラジコン飛行機を製造する、いわばパーソナルファブリケーションのベンチャーだ。

 欲しい物は自分で作る。この動きは、コンピュータソフトウェアの世界における「オープンソース」という一大変革にどこか似ている。大量生産をベースにした、これまでのモノづくりのあり方から、個人生産の時代へのシフト。今後の技術発展によっては、「パーソナルファブリケーション」は、消費経済の根本を変える力になるかもしれない。

(吉田由紀子/5時から作家塾(R)