製造のデジタル化で
低コスト生産が可能に
前著『フリー』が素晴らしかったクリス・アンダーソンの新著の翻訳『MAKERS(メイカーズ)――21世紀の産業革命が始まる』(関美和訳、NHK出版社)が出た。今回のテーマは製造業だが、期待を裏切らない内容だ。
デジタルな情報をやり取りする「ビットの世界」は巨大なビジネスになったが、言うまでもなく物を作り流通させ販売し消費に至る「アトム(原子)の世界」の方が、経済規模で見ても数倍大きいし、何よりも、日々の生活に影響している。
このアトムの世界の根幹をなす製造業が、主としてデジタル技術とネットワークの進化によって、大きく変わりつつある。
クリス・アンダーソン自身が、この分野の起業家でもあるので、本書の記述は詳細かつ具体的で、新たな小製造業者へのツール(3Dプリンタなど)やソフトウェア(まずはCADソフトだ)のお勧めまで載っている。自分でもやってみよう、という方は、ぜひ直接本書に当たって欲しいが、今起こっていることのあらましは、筆者の理解では以下のようなことだ。
かつては、発明家は、自らのアイディアを商品として世に出すためには、発明の特許を取り、大企業を説得して製造ライセンス契約を結び、大量生産によって採算を取る必要があった。特許を取る手間と時間と費用も大きかったし、自分で製造設備を持とうとすると、大きな資金とリスク負担とが必要だった。
しかし、今では、商品の設計図をCADソフトで読める形式で作成して、しかるべき相手に送ると、3Dプリンタその他のツールを使って、簡単かつローコストで試作品や製品そのものを欲しい数だけつくってくれる。
しかも、商品のアイディアや設計自体をネット上に公開すると、この商品に共感する人々のコミュニティができて、彼らの協力の下で、設計自体が短時間で完成したり、改善できたりする。