妊娠高血圧をご存じだろうか。高齢出産が当たり前の昨今、男性陣にも知ってほしい知識の一つ。一昔前まで「妊娠中毒症」と呼ばれていたもので、妊娠5カ月以降に初めて高血圧が生じ、分娩後3カ月までに正常に戻る場合を指す。蛋白尿を伴う腎症を併発することもある。原因はいまだに不明。妊婦の約1割に出現し、早産や帝王切開などの分娩リスクのほか、低出生体重児(未熟児)や仮死状態ギリギリでの出生など、胎児側のリスクも増加する。

 しかも、この10月に米国神経学会の機関誌「Neurology」に掲載されたヘルシンキ大学の研究グループの報告によると、妊娠高血圧は妊娠─分娩時のリスクにとどまらず、成人後の思考力にまで影響するというのだ。

 研究グループは1934~44年に生まれた約400人の男性を対象に、その母親の妊娠中の高血圧と蛋白尿の既往を調査。男性が20歳に達したときと、平均68.5歳時に言語運用能力、数学的能力、空間把握能力についてテストを行った。その結果、母親が妊娠高血圧だった男性は、正常血圧の母親から生まれた男性に比べ、老年期のテストの点数が4.36ポイント低かった。彼らは20歳時点での点数も劣る傾向があり、老化に伴う思考力低下の度合いが大きかった。研究者らは、脳の発達過程に妊娠高血圧が影響するのではないか、と推測している。

 はたしてどこまで脳機能との因果関係があるかは検証不足だが、妊娠高血圧が母子に望ましくないのは確か。日本の「妊娠高血圧症候群ガイドライン」によると、妊娠高血圧の発症リスクの筆頭は、母体年齢。発症頻度自体は35歳以上と15歳未満で多いが、40歳以上は出産経験の有無にかかわらず、若い女性の約2倍に増加する。そのほか、高血圧の家族歴がある女性、BMI25以上の肥満女性は注意が必要だ。

 ちなみにパートナー側のリスク因子は、次回妊娠までの期間を長引かせること。5年以上間隔があくとリスクが倍増する。こればかりは神様のおぼしめしとはいえ、2人目を考える際に頭に入れておくとよいかもしれない。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)

週刊ダイヤモンド