土地8坪に立つビルで極上を醸す!
東京港区芝のクラフト蔵
コンパクトシティーを実現させる形の一つとして、「クラフト蔵に大きな可能性がある」と東京港醸造の杜氏の寺澤善実さん。
港区芝の総面積22坪の4階建てのビルで一年中、酒を醸す。4階で米を蒸し、麹を造り、3階で蒸し米を冷やし、仕込みと上槽は2階、瓶詰めを1階で行う。仕込み水は東京の水道水で、東京産の米と酵母を用いた酒や、SDGsを考慮した無洗米の酒の醸造にも挑む。
代表の齊藤俊一さんは、100年前に廃業した実家の酒造業を復活させるのが悲願だった。2006年に寺澤さんが責任者を務める52平方メートルの台場醸造所を見て、この面積で酒ができるなら!と寺澤さんを口説いた。
「絶対儲からないからやめた方がよい」と言われたが、「財産をなくしてもいいからやりたい」と、齊藤さんは何度も交渉。寺澤さんはその熱意と夢に共感した。
だが、肝心の酒造免許は税務署から門前払い。諦めず署へ日参し紆余曲折の末、11年に、どぶろくが醸せるその他の醸造酒とリキュールの製造免許を取得。16年に清酒の製造免許を取得し、「江戸開城」を発売。
宣伝のため角打ち用の車を誂えて祭に出店し、蔵の前でも営業。売店を設け、ネット販売も始めると、東京23区内唯一の酒蔵は徐々に人気が上昇。
さらに寺澤さんは大きな麹室が要らない超小型製麹装置を発明。奇跡のようなクラフト蔵の成功に問い合わせも入る。寺澤さんはコンサル業務を行う新会社を設立。新たな蔵も立ち上がった。
小さな醸しが、大きな波となり全国へ。
●東京港醸造・東京都港区芝4-7-10●代表銘柄:純米吟醸原酒 江戸開城、同 All Tokyo、同 Sustainable Sake、純米どぶろく江戸開城●杜氏:寺澤善実●主要な米の品種:山田錦、雄町、愛山、キヌヒカリ