ここでいったん、NPOに目を転じてみましょう。NPOではそもそも株主が存在しませんし、出資者(寄付者)に金銭でリターンを提供することもありません。提供するのは社会へのインパクトという無形の価値です。ですから先ほどの企業の話と同じく、出資者とエモーショナルな関係を築き、かつ信頼をかちえて長期的な関係を築く必要があるわけです。
そうした関係を作るうえで参考になるのが、「フェアトレード」なんです。
フェアトレードが
全世界的な「うねり」を生み出した本当の理由
フェアトレード、というビジネスのありかたを知らない人は最近では少ないと思います。フェアトレードとは、開発途上国で生産される原材料や製品を適正な価格で購入することで自然資源や労働力の不適切な搾取をなくし、生産者や労働者の自立や生活改善を目指す、「公正取引」のことです。10年くらい前には「フェアトレード?何それ?」という方も多かったと思いますが、現在では大手スーパーのイオンでも「フェアトレード製品を選ぶ消費者が多いから」という理由で製品の導入を決めるほど、社会に浸透してきました。
フェアトレードがここまで浸透し、製品を購入しよう(出資しよう)という消費者が増えた背景には、フェアトレード認証機関の存在があります。世界中にいくつかあるこれらの認証機関では、それぞれが基準を満たした製品に認証ラベルという「お墨付き」を与えています。
彼らが「フェアトレード」に対して現在のような認知度と継続出資者を集められたのには2つ、理由があります。一つは「フェアトレード製品を買うのは、かっこいい!」と思ってもらえるようなブランドづくり、もう一つは成果指標の明示です。
企業においても、ブランドづくりは収益増、ひいては株主価値増大という面において重要なのは言わずもがなですので、一つ目の話は割愛したいと思います(拙著『社会をよくしてお金も稼げるしくみのつくりかた』第6章参照)。企業とNPOで、出資者へのWinづくりにおいて違いがあるのは二つ目の成果指標の明示でしょう。
企業であれば成果指標=収支報告となりがちですが、収益を追求しないNPOの場合では、当然ながら成果指標は「どのくらい社会にインパクトを残せたか」ということになります。フェアトレードの認証機関であれば、いくつの製品がフェアトレードの認証を受け、それによって開発途上国の生産者がどのような恩恵を受けたのかといったことの数値化がそれにあたります。
株主が企業の財務状況に目を光らせているのと同じく、NPOへの出資者も「自分の寄付が具体的にどんなインパクトを生んだのか」を厳しく見ている現状において、社会的インパクトという成果を数値化することは、大切なことなのです。