自民党総裁選は、岸田文雄元外相、河野太郎行政改革担当相、高市早苗元総務相、野田聖子幹事長代行が立候補することになった。久々に多数の候補者が総裁の座を争うことで、かつてのような「疑似政権交代」のような状況になり、自民党が多様性、柔軟性、活力を取り戻し「一党支配」が続くのだろうか。それとも、「長老一強」が続いて自民党の衰退が続き、野党と政権を争う「政権交代ある民主主義」に向かうかに注目している(本連載第284回)。(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)
迷走する岸田氏、失敗続きで不安
岸田氏は最有力とされるが、政局眼のなさと戦略の稚拙さは相変わらずだ。岸田氏は、総裁選に向けて、「総裁を除く党役員は1期1年、連続3期まで」との党改革案を掲げて、菅首相・二階幹事長の現執行部への対決姿勢を鮮明にした。彼らしからぬ攻めの姿勢であったが、二階氏があっさりと幹事長辞任を表明し、岸田氏は振り上げたこぶしの下ろしどころがなくなった。
その上、菅首相自身が総裁選不出馬を表明したため、岸田氏が描いた「菅VS岸田」の対立構図自体が崩れてしまった。そして、河野氏、高市氏、野田氏が次々と出馬表明した。岸田氏は、根本的に総裁選の戦略を練り直さねばならなくなった。
岸田氏は、過去の総裁選で安倍前首相からの「禅譲」を期待して裏切られた(第252回)。その甘さは相変わらずで、正直頼りない。
今回も、最初は珍しく強気に出たが、「森友学園問題の再調査をするとは言っていない」と述べるなど腰砕けだ。党の改革を断行するのか「長老一強」支配の傘下になるのか、よくわからない。情勢の急激な変化に肝が据わらず、右往左往している印象だ。
政策の実行力にも不安がある。閣僚・党幹部の経験が豊富なベテランであるのだが、昨年4月、新型コロナウイルスの経済対策をめぐる混乱を覚えている方も多いだろう。岸田氏は、政調会長として財務省とともに、減収世帯に30万円を給付する方針をまとめた。ところが、この措置は、制度そのものが分かりづらい上に、自己申告が煩わしく、いつもらえるかも分からない。本当に必要な人がもらえるのかどうかも分からないと酷評された。
結局、安倍首相(当時)は、国民1人当たり一律10万円を給付する方針に転換した。岸田氏のメンツは丸つぶれとなり、「ポスト安倍」としての力量不足と酷評された(第193回・p2)。これは、安倍首相退陣後の総裁選で、安倍首相が岸田氏への「禅譲」をやめた原因の一つだといわれる。
岸田氏は、官僚とともに政策を手堅くまとめたが、「生真面目」すぎた。根回し、調整能力に疑問があるし、政策の「見せ方」が下手すぎる。首相になったら、内外のさまざまな難題を前に、右往左往するのではないかと不安である。