ニューノーマルの時代にはこれまでの勝ちパターンは通用しない。変革期に必要な新しい思考回路が求められている。それがアーキテクト思考だ。アーキテクト思考とは「新しい世界をゼロベースで構想できる力」のこと。『具体⇔抽象トレーニング』著者の細谷功氏と、経営共創基盤(IGPI)共同経営者の坂田幸樹氏の2人が書き下ろした『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考 具体と抽象を行き来する問題発見・解決の新技法』が、9月29日にダイヤモンド社から発売される。混迷の時代を生きるために必要な新しいビジネスの思考力とは何か。それをどう磨き、どう身に付けたらいいのか。本連載では、同書の発刊を記念してそのエッセンスをお届けする。

なぜいま、アーキテクト思考が必要なのか?Photo: Adobe Stock

「そもそも何が問題なのか?」
問題そのものを発見・定義し直す力が求められている

 コロナ禍やデジタル革命の進行など、我々はいま先が読めず不確実性の高い「VUCA(予測不能)の時代」(Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguity)を生きています。

 2020~2021年は、コロナ禍によって世界を挙げての激動の年だったといえます。これほど世界中同時に先が読めない状態が続いたことは、近来稀に見ることだったといえるでしょう。

 このような変化の激しい時代には、既にある問題を解き、既にある変数や指標を最適化するという問題解決の考え方から、「そもそも何が問題なのか?」と、問題そのものを発見し定義し直すことが必要です。

 そうしてゼロベースで新しい時代を切り拓いて、新たな世界の全体像を構想していく発想や思考力が必須になります。

 これまでの日本では、既におぜん立てされたフィールドでプレイする、そのゲームを最適化することが圧倒的に求められてきました。

 また、そのような状況は「与えられた環境下で決められたルールを守ってベストを尽くす」ことが得意な日本人に合致して、20世紀の成功パターンを作り上げてきました。

 そもそも「戦後の日本」というのも、ある意味で「設定された場」だったともいえるのではないでしょうか?

 もちろんその与えられたフィールドで素晴らしい技術を披露して、連戦連勝するに等しい戦績を挙げた「過去の栄光」も、20世紀の高度成長期やバブル期にはありました。これは純粋に、そこでの戦術や磨き上げたプレイヤーの技術が素晴らしかったことを意味しています。

 しかしながら、そこで最高の戦績を挙げた自動車、半導体、電気・電子機器等は皆、そもそもの基本構想から我が国で発想したものは、あまりありません。全ては「誰かが決めたゲーム」に参入して、そのルールを徹底的に研究して最適化することで勝ってきたのがこれまでの成功パターンの多くでした。