多くの企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでいる。しかし、全社の仕組みや既存のビジネスを大きく変える可能性がある改革には抵抗する人たちも少なからずいる。そうした中で大胆な企業変革を成功させるカギは、意外にも「短期的に小さく目に見えて分かる成果を実現すること」だという。グロービスで講師を務め、国内外の企業経営に精通している林恭子氏が、DXによる企業変革を成功に導く重要なポイントを解説する。(構成/小林友紀)
改革の抵抗勢力をどう巻き込むか
経営者がすべきこと
DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が当たり前のように使われるようになりました。DXとは、デジタイゼーション、デジタライゼーションの概念をさらに一歩進めた、デジタル化によってビジネスモデル全体が大きく変わる状態を指す言葉です。つまり、一部の製品やサービスだけでなく、組織や企業文化を含めた企業全体がデジタル環境へ変わり、さらには顧客や社会へもインパクトを与える可能性を秘めた、大きな企業変革を指しており、容易に成し遂げられることではありません。
DXの目的は、突き詰めて言えば「時代に合った新しい企業価値の創造」です。ここでのデジタル化はあくまで手段なので、最も重要なのはデジタルの“技術”ではなく、「(デジタル化を前提とした)戦略的な事業として成り立つか」を判断する「ビジネス思考」や「イノベーション創出力」です。
そういった意味では、企業変革を成功に導くためにまず何よりも必要なのは、経営トップの大きな覚悟とパワーといえるでしょう。DXの成功には全社の意識・行動変革が不可欠です。そのために、経営層がチームをしっかりとバックアップし、トップの意思として改革に取り組むことが重要になります。
そうすることで、改革の過程でハードルとなる社内の抵抗勢力に対峙(たいじ)し、最終的に全社を巻き込んだ大きな変革をもたらすことができるのです。経営トップが全力でやる覚悟を、まずは肝に銘じてほしいと思います。
しかしながら、全社で変革を実現するというのは並大抵のことではありません。重要なのは、変革を着実に実現するための「ポイント」を押さえることです。まずは、近年のリーダーシップ論の第一人者である、ハーバードビジネススクールのジョン・コッター名誉教授が提唱する「企業変革における8ステップ」に基づいて、変革を成功させるポイントを見ていきましょう。